Arata

ナイル殺人事件のArataのネタバレレビュー・内容・結末

ナイル殺人事件(2022年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

ひと月程前の事。Amazonで、無料配信が始まったので鑑賞。

作品自体は、1978年版を近年になって鑑賞、原作は未読。

78年版は、犯行のトリックとしてお酒が重要な役割を果たしていたのだが、今作でも登場こそするが78年版程のインパクトを感じなかった。


また78年版で作家だったサロメが、黒人のブルースシンガーに変更になっていた。
舞台は1937年のロンドン。
この時代に、イギリスで黒人のブルースシンガーがいたのかどうかは不明。

使用しているギターは、前年の1936年に発売されたエレキギター「ギブソン社製のES-150」と言うギターかと思われる。
ES-150は、150ドルのギターと言うネーミングで、現在の日本円に換算すると50万円と言う事になるらしい。
既に生産終了している型の為、入手は難しいと思われる。
このギターを使用しているミュージシャンは、ジャズギタリストのチャーリー・クリスチャンが代表格。
25歳の若さで亡くなるも、残された数少ないレコーディングなどが、次代のミュージシャンに大きな影響を与え、モダンギターの父やジャズギターの祖など、様々な異名を持つ。
ニューヨークのハーレムにかつてあった伝説的ジャズクラブ「ミントンズ・プレイハウス」でのセッションの様子がレコーディングされた「ミントンハウスのチャーリー・クリスチャン」は、歴史的名盤。トランペットはデイジー・ガレスピー、ピアノにはセロニアス・モンク、など豪華布陣。
未聴の方は、是非ご一聴されたし。


原作未読なので、なんとも判別し難いが、78年版とは大きく違い、かなり違和感を抱いた。

とまあ、こんな感じのレビューを書き終えずにいたある日、名探偵ポワロシリーズの原作原理主義者の方とお話しをする機会があったのだが、そのお方が言うには「早くケネス・ブラナーがポワロに飽きて欲しい。これ以上いじらないで欲しい。」と嘆いていた。
具体的に、何がどういけないのかと聞こうと思ったのだが、そのお方は思い出すだけでも気分が悪いと言い、まったく話が出来なかった。
普段は、意見の違いも含めて、理性的に議論が出来るお方なので、そのただならぬ様子にこちらも閉口せざるを得なかった。

いずれにせよ、私が今作で感じている違和感は、78年版や原作とは、決定的な何かしらが違ってしまっていると言う事なのだろう。

これは、ますます原作を読まねばと言う思いに至った。

また、いつも良く映画のお話しをさせていただく別の方も、「アガサ・クリスティーは、本で読んでこそ。今作を見るつもりは、今のところ無い」とまで言っていた。


登場人物に大きな違いがあったり、ポワロがナイルに居る理由や、殺害される人物が替わっていたりもするし、ラストの心中シーンも方法が違っていて、若干分かりにくかったし、お金と愛の誤ちに関する今作のテーマの扱い方にも違いを感じた。
78年版では、「愛、そしてお金に目がくらむ行為そのものが危険。なので貴方はそうならない様にね。」と説いていたが、今作では「愛やお金のためならば、人は何だってする。だから巻き添えを喰わない様にね。」と言っている様に思えた。
本人に向けているか、その周りの人に向けているか、メッセージの向どころが違う事で、根本的な意味合いも変わってくると思えた。


ポワロのバックボーンが語られ、感情を露わにするシーンが多く見受けられたが、事件とも推理とも関係している内容とはあまり思えなかったので、個人的には余計な分子に思えてならなかった。


【お酒】
シャンパンに睡眠薬を混ぜたものを飲んだポワロは、深い眠りの中ーー。

「眠りから覚めると、殺人事件が起こっていた。」となるのはどちらも同じだが、78年版ではお酒に詳しい有能な名探偵と言った様子が伺え、それにより事件が解決していくのに対し、今作ではお酒に弱く、感傷的になり、それにより事件発生を防ぐ事が出来なかった、と言う流れに変更になっている。




【総括】
原作未読ながら、78年版の映画と比較して、根本的な事が大きく違い、戸惑いを覚えた。


映像の綺麗さや、演技の素晴らしさはとても良いが、個人的には最大の鑑賞ポイントであるお酒の描写が、前作と比較してお粗末に感じられたのが残念。


3作目のベネチアの亡霊を観る前に、今作の原作を読もうと思う。
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