ジャン黒糖

ラブバードのジャン黒糖のレビュー・感想・評価

ラブバード(2020年製作の映画)
3.4
マイケル・ショウォルター監督×クメイル・ナンジアニというAmazon Primeオリジナル映画『ビッグ・シック』に続いて、今度はNetflix製作のラブコメ映画。
ダブル主演には『バービー』に"バービー"役でも出ていたイッサ・レイ。

【物語】
パキスタン系アメリカ人のジブランとアフリカ系アメリカ人のレラーニは交際4年を迎え、喧嘩の絶えない毎日に限界を感じていた。
ある日、友人のパーティに向かう車中、相変わらず口を開けば一触即発の2人は、突然道に出た自転車の男を轢いてしまい、助けようとするも男は何かに追われるように慌てて逃げ出してしまう。
その直後、今度はその自転車の男を追っているという警官を名乗る男が現れ、勢いのまま運転を代わる2人は追跡の末、殺人事件の濡れ衣を着せられてしまう。
咄嗟に逃げてしまう2人だったが、無実を証明するため、警官を名乗った男の行方探しに奔走するのだが…。

【感想】
ざっくりと、マイケル・ショウォルター監督作に共通する自分なりに思う作風を挙げると以下。

①人物同士の関係性をシュールなジョークを交えた会話劇で描く
②目に見えないもの/見えるものをユーモアに描くバランス感覚
③従来のスタンダードに捉われない組み合わせによって生じる現代性


マイケル・ショウォルター監督は、毎作ドラマとコメディを融合させるバランスが絶妙で、一見シュールな会話劇でも登場人物の複雑な感情や関係性の深い掘り下げを手際良く描いているように感じる。

たとえば本作でも主人公2人が付き合い始める冒頭シーンはまるで『ビッグ・シック』のクメイルとエミリーのように、互いにジョークを言っては笑い合う関係性が素敵で、こういう場面の会話劇はマイケル・ショウォルター監督のオハコではと思った。

からの4年後!
あのときはアツアツだった2人も、4年経てば言葉尻や仕草ひとつが口論の火種に。
「ん、いまそのインスタ投稿にいいね!押した?」など、笑っちゃう場面だけど観ている自分の胸の内に聞いてみれば他人事とは思えない妙なリアリティを感じる笑


本作は、序盤で殺されてしまった男が持っていたスマホを頼りに、濡れ衣を払拭すべく2人が事件の真相を追うのがストーリーの軸となるため、サスペンスやバディ要素などもある。
ただ、セリフの大半は上記のような細かい部分が気になって仕方ない2人の解像度高過ぎるウィットに富んだ会話が占めており、それゆえ会話のたびにストーリー運びを停滞させているようにも見えてしまう。

Lyftで相乗りしてしまったアツアツカップルへの痺れを切らしての一言!
レストランでのウェイターとの会話、からのドリンクに携帯チャポン!
川辺でこの先について会話している2人の横を散歩する犬が横切ると途端にワンちゃんべた褒め!
など、会話の緩急がすごい笑


そのため、この2人の会話をいかに楽しめるか、がこの映画の楽しさに直結するので人は選ぶかなと。
実際、上映時間90分弱ながら個人的な実感としては長く感じた。笑


ともすればこの映画、彼ら2人には見えていない側面にクローズアップして物語を掘り下げれば怖い映画にもなりうる。
2人が追う真犯人はかなり冷酷でマンションの一室にいる学生たちを一瞬で◯しちゃうし…、あとなぜか途中、『アイズ・ワイド・シャット』のような秘密のパーティもなぜか出てくるし笑

ただ、2人が追うべき事件の真相や犯人自体はあまり見せず、映画の軸には事件を追うごとに深まる2人の関係がある。

この、関係の冷め切ったカップルにもかかわらず、付き合いの長さや過ごした濃密な時間だけが醸成できる2人だけの特別感がとてもリアルで、ここにマイケル・ショウォルター監督の手腕を感じた。
物語的に事件の真相がひとつずつ明らかになるステップと、ジブランがすっかり忘れていた彼女の魅力に改めて気付かされる瞬間が呼応していく映画の構成自体が面白かったし、観ている自分自身、ジブラン同様、映画を観ていくと段々「レラーニのこういう所がやっぱすっきゃねんなぁ」と思えてくる!

思えばマイケル・ショウォルター監督作、"見えない/見えてくる"はひとつ、共通するモチーフ、演出、テーマに思う。
『ドリスの恋愛妄想適齢期』でいえばオフィスにやってきた若い男性社員へのドリスの妄想を描く一方でその男性社員が実際にはどう思っているのか、は断片的にしか描かない。
『ビッグ・シック』でいえば病床に伏した恋人エミリーや、クメイルの母シャーミーンとクメイルの関係が途中で断絶=見えなくなってしまう。
そして『タミー・フェイの瞳』ではベイカー夫妻が信仰するキリスト教そのものがキーとなる。

本作も、事件そのもののスジはあまり見せない一方で、事件が明らかになるにつれ、ジブランとレラーニはお互いの魅力に気付き始める。
なるほど監督の特徴かなこれは。



最後に、フィルモグラフィ的には同監督前作『ビッグ・シック』に引き続き主演をクメイル・ナンジアニが、イッサ・レイと一緒に務めた。
この2作を比較すると対比がちょっと面白い。

ジブランはパキスタン系アメリカ人、レラーニはアフリカ系アメリカ人。
『ビッグ・シック』では人種の異なるカップルが物語のアクセントとなっていた一方、本作は白人警官に目を付けられたら「なんだ…ただのレイシストか」という際どい一言で済ます、このバランス。笑
また序盤、殺人事件の犯人に2人が間違われた時に通報した人が警察に説明する弁明の内容も、いまの時代、リアリティある毒っ気なんよ…笑

他にも、『ビッグ・シック』と本作で以下の違いがある。
映画の舞台→シカゴ、ニューオリンズ
ライドカーサービス→Uber、Lyft
(ちなみに配給→Amazon Prime、Netflix)



このように、場所やアイテムは違えど、ストーリーそのものは何回も観たようなロマコメ、バディもの、クライム…なんだけど、カップルの組み合わせや使われるキーアイテムが違うだけで現代性を帯びるし、やっぱ即興性に重きを置くマイケル・ショウォルターの特徴でもあるよな、と思った。

ただ、、ちょっと『ビッグ・シック』とかに比べるとインパクトに欠けたかな…。
というのと、2人がお喋り過ぎてやっぱ物語が停滞してた!笑
でも、このカップル、お幸せにと思ったね!
ジャン黒糖

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