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ヴィタリナのnoelleのレビュー・感想・評価

ヴィタリナ(2019年製作の映画)
5.0
公開時にシネマリンで見たぶりに。今日の目当ては新作短編だったのだけど拍子抜けしてしまい(後述)、2回目見る予定のなかったこちらヴィタリナが再見したらめちゃくちゃ良かったという予想外の展開だった。

硬質な画の連なり、終始静寂と緊張に支配されているような映画だけど、こんなにエモーショナルな話だったかと面食らった。物語と画面との対比が効いていて、いくらでもドラマチックに描けるはずのヴィタリナの感情が無駄な言葉は無しに画面から、身体からビシバシと伝わってくる。厳格だけど哀愁を放つヴィタリナの身体、と何より顔面、暗闇のフィックスショットで唯一動く時の眼がものすごい。
こんなに闇を見つめる映画もなかなか無い。彼女たちの肌の色、わずかな灯りで輪郭が浮かぶ室内や街路、夜の闇。音もとにかく無駄がない。手が震えてる神父(ヴェントゥーラさん)の歌った讃美歌以外音楽はほとんど無く、残っている音の印象は鍵穴に鍵を入れる時やヴィタリナが土を掘る時のピンポイントの音。クラブの音も序盤聞こえたが場は映らなかった。
格子越しの顔のショットが3回。その1つヴィタリナがシャワーを浴びて上からレンガが頭に落ちてくる場面は、痛いとすら口にせず無言のまま、その後彼女の哀しみがどっと押し寄せるように感じられてすごかった。
ポルトガル語ができたら彼とも話せるよ、と神父に言われ、何よそれと気乗りしないけどちゃんと学ぼうとするところや愛の力は強いのよと語るところ、そしてラストショットは夫と故郷カーボベルデの家の屋根を作っていた時の場面なのだろう、素晴らしくて涙腺が緩んだ。
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