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エスケープ ナチスからの逃亡のNMのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

あまりにも危険な環境で生き抜くことをめざした、勇敢で賢い少女の物語。
舞台はほぼ農場一箇所なのに色んなハプニングがある。奇跡的に難を逃れ続けるのもスリリング。
そしてクライマックスは緊張感が走り、映画としてとても面白い。
エンディングは淡々とし、変な演出がないところもとても好みだった。彼女は得たものもあったかもしれないが失ったものはとても大きいし帰ってこない。
あと当時のナチとノルウェーの状況が映画で観ることによって腹落ちした。


ノルウェーに暮らす、仲の良いユダヤ人一家の3人家族。
中立国だったノルウェーには5年前からナチスが駐留し占領下にあった。

ある夜突然家にナチが押し入り問答無用で3人とも連行。
前日まで普通に暮らしていたというのに。

途中、14歳の娘エスターだけが抜け出すことができた。
雪の山を無我夢中で駆け出す。
しかしコートも食事も雨風を防げる場所もなく命が危ない。

すると森で出会った農家の少年が、とりあえず豚小屋の奥にかくまってくれた。
少年は心配そうにエスターの寝顔を見つめる。優しい性格らしい。

しかしその家の父親は根っからの差別主義者で、数名のナチの部隊に部屋等の提供もしており毎日出入りがある。
父親は片足が不自由な息子にいつも冷たく当たり、妻にも横柄な態度だった。
妻と息子はそんな彼を尊敬はしていない。

エスターはこの家の状況を知り、出ていった。
しかしこのまま行くあてもなく雪の中を歩き回っていても埒が明かない。
そして両親が雪の中で倒れているのを見つける。
娘が逃げたみせしめに殺されたようだ。

エスターは持っていたカミソリで髪を短く切り落とし、そのナチ党員と父親が乗った車を待って前へ飛び出した。
両親がイギリス軍に殺されました、助けてください、と。
無事男の子だと思われて、車に乗ることに成功。あの家にまた戻ってきた。
あまりにも危険な場所だがここしかない。

彼らに問いただされていると、息子が、うちの仕事を手伝ってもらったら?と口をはさむ。
母親もナチ党員も賛成し、父親も承諾した。

エスターは怪しまれることのないよう黙って忠実に働いた。
すると父親に、息子より役に立つと気に入られるように。

出入りしているナチ党員の一人と母親は不倫関係にあることを、エスターは知った。
夫よりはマシで気が紛れたのか、本当に恋に落ちているのか、家を守るためにも断れなかったのかは不明。本人にも不明だろう。
男のほうは本気のようだ。

父が不在の日、男と母親は街に近い映画館に行く予定を立てていた。
息子とエスターも連れて行ってもらえることに。
エスターはそのまま脱出することを企てる。
そしてこの家で寂しい思いをしてきた息子も、一緒に行くと決意してくれた。

映画が盛り上がったときいざ抜け出そうとすると、なんと息子は映画を観たいと言い動かない。
タイミングを逃し、計画はまさかのお流れ。
家に帰り部屋で喧嘩になる二人。

なにごとかと母親がやって来た。薄着のエスターを見て女の子だと知る。
どうして嘘をついたのか尋ねられ涙ながらに「ユダヤ人だから。お願い黙っていて」と全てを告白する。いまだあどけない少女そのもの。
母親は責めもせず黙っていてくれた。
エスターは不倫を隠してやり、母親はエスターの正体を隠すのを手伝った。

家に帰ってきた父親は、エスターのために党員の制服を持ってきた。
着てみろと言われたが目の前で着替えなどできないので、ハレの日に着るためにとっておきます、とごまかす。
父親は、そんなに嬉しいのかと勝手に満足した。

毎日の仕事ぶりを見て、父親のエスターに対する愛情は着実に高まっていく。
ある日、跡継ぎの仕事であるクリスマスツリーの伐採が、息子ではなくエスターに任された。
信じられないという顔でエスターを見る息子。これまでずっと耐えてきたのに。
もちろんエスターも想像していなかったこと。

二人で森へ出かけた息子とエスター。
さっき受け取ったこの家に伝わる斧を、エスターは息子に渡してやり木を切らせてやった。
苛立つ息子はやけになって斧を振り、自らの足に怪我をしてしまう。
重症でしばらく歩けない。

ナチ党員たちが内通者の男を捕まえこの家に連行されてきた。
離れにあるサウナ小屋で尋問。
党員たちが部屋を出た隙に父親は、両親の仇だと思って殴っていいぞとエスターに薪を渡す。
戸惑っていると男は小声で、演技を続けろ、と後押ししてくれ、エスターは男を殴った。これは致命傷となったようだ。
父親はエスターを男として完全に認めたようで、笑顔で抱き上げすらした。

党員選挙の日。
結果はこの農場にも影響する。
父親はあの制服を着たエスターに、財産はお前に譲るつもりだと語る。お前だけが俺の理解者だからと。
一方松葉杖の息子は、今日は党員がたくさん来るからお前は部屋にいろと諌められてしまう。

夜。アイヒマン一行も到着。幼いが立派に制服を着たエスターを見て目を細めた。
不倫相手と母親が仲良く話すのを見て、父親は二階に呼び出し平手打ちをした。父親も気付いてはいるようだが状況的にどうしようもないようだ。
涙を流す彼女をエスターが慰めた。母親は何とか気を取り直し宴会の支度へと降りて行った。

宴もたけなわとなり、父親は国家統一党(ナチのこと)の地区長官の任を言い渡され笑顔を見せる。
だが同時に、この農場はドイツ人が占拠することになるがいいなと念を押された。
既に一部隊を受け入れているが、今後はもっと来るという。
早く同意しろよと急かされるが父親は思わず言いよどむ。

台所で母親は、今夜不倫相手と息子と逃げる、とエスターに打ち明ける。
だがエスターは止める。
エスターは、男が母親に送ったペンダントがエスターの母の形見だったことを知っていた。その男は信用できないと判断したのだろう。

エスターも、今夜逃げなくてはと決意。
協力してもらおうと慌てて息子を探すと、不貞腐れて納屋で寝ていた。
今夜こそ逃げようと告げると、君は僕の立場を奪ったと協力を拒否された。
馬を用意する人がいなくては不可能。
そこで、今夜母親は男と逃げる、だけど私にはあなたが必要だと説得すると再び同意してくれたので、準備を頼んでおいた。

父親に呼ばれたエスター。
男たちの集うサウナ小屋に連れ込まれ、無理やり服を脱がされてしまう。
呆然とする父親に党員たちから嘲笑と罵声が浴びせられ、任命の話はなしだ、しかし農場は占拠する、と怒鳴られた。

するとエスターは「私はユダヤ人です!彼がずっとかくまっていました!」と叫び、小屋を飛び出して外から鍵をかけ火を放った。

父親は追ってきてエスターにショットガンを向けた。
そこへ二人でいた母親と不倫相手が驚いてドアを開けた。
父親はそれを見て、男らしく勝負しろと不倫男のほうに銃を向けた。
男はピストルを父親に向けたがエスターは咄嗟に邪魔をした。
すると父親の銃弾のほうが男の頭を貫いた。
続いて父親はショットガンの銃口を加えて止める間もなく引き金を引いた。

燃え上がる家、死んだ夫と恋人。
母親は泣き叫びながらも、逃げてと二人を追い立てた。
息子をソリに乗せ馬を走らせるエスター。
凍った湖の上を通り、スウェーデンへと逃げようとする。
しかし息子は氷の割れ目に落ち、沈んでいった。

1945年。
美しく成長し、ナチスから解放された実家へ3年ぶりに戻ったエスター。
家は荒れていたがまだそこにあった。
エスターはそこで美容室を開いた。

罵倒されながら町を歩いてきた女性。あの母親だ。
ノルウェーでは戦後、ドイツ兵士と関係した女性は、同胞たちから裏切り者の売春婦だと差別され、国家ぐるみで迫害した(3~5万人といわれている。現在は公式謝罪済み)。
彼女は散切り頭にさせられており、何らかの見せしめのためされたことが想像でき、一目で見分けが付く状態だった。

店を覗きに来た母親の姿を見て、先客の女性は不愉快だと罵声を浴びせる。
母親が帰ろうとしたところを、エスターは先客のほうを帰らせた。

彼女はあのときのペンダントをエスターに返しに来たのだった。本来の持ち主に返したかったのだろうし、他に頼る人もなかったことだろう。
この彼女がエスターを逃してくれた張本人であることなど、街の人々は知りもしない。
エスターはそのまま黙って彼女にウィッグをかぶせ、口紅を塗ってやり、肩に手を置いた。

一人きりで生き抜いてきた女性の、他の者にはわからない友情がそこにはあった。
私はかつて別人として生きました、あなたも別の人生を歩んで欲しい、と。
父の形見はエスターに生きるチャンスを与え、母の形見は彼女に真実の目を与え、彼らの店はエスターに許しと共感の場を与えた。


メモ
「エスター」「聖書にある名前ね」......エステル記のエステルのこと。エステルは女性で両親がおらず、国じゅうの美女が招集されたペルシア王の後宮に行った。ハマンという権力者が王に取り立てられ、恨みからユダヤ人を根絶やしにしようと王に進言し勅書を書かせた。エステルは王に愛され后となったがユダヤ人であることを隠したままだった。しかしある夜エステルのいとこが王の暗殺を阻止していた事実を知り、エステルもユダヤ人だったことを知った。ハマンは処刑され勅書も取り消しとなった。
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