odyss

ファヒム パリが見た奇跡のodyssのレビュー・感想・評価

ファヒム パリが見た奇跡(2019年製作の映画)
3.5
【美談なのか?】

色々と考えさせられる映画だった。

バングラデシュの男の子がチェスの天才で、父親に連れられてフランスに不法入国。
父親は強制送還されそうになるけど、男の子がチェスの全国大会で優勝したので、特例で・・・ってな話である。
実話だそうで。

難民をめぐっては、ヨーロッパ諸国でも色々と揺れている。
フランスやドイツはほどほど入国を認めているけど、無制限ではない。
この映画のように、いったん入国しても強制退去させられる場合が珍しくない。
まして、ヨーロッパでも東欧などは「難民ノー!」という姿勢を取っているところが多い。

ヨーロッパだけじゃない。
日本だって難民をきわめて少数しか受け入れていない。

難民は人道的観点だけで語ることのできない問題だ。
多数の難民が押し寄せれば、国内には混乱も起こる。
難民がその国で普通の市民として働きながら暮らしていけるようになるまでには、教育や訓練も必要。住まいも用意してやらなくてはならない。それには多額のお金がかかる。むろん、税金からの支出になる。

この映画でもちょっとだけ言われているが、先進国の福祉や居住環境が優れているからといって、それなら後進国から気楽に移住していいのか、という問題がある。
難民も少数ならいいが、大規模に入ってくると先進国は先進国ではなくなる。
先進国のすぐれた福祉制度や住居環境は、その国の人間が長い時間をかけ、税金をしっかり支払って形成してきたものだ。
いきなり他国から来た難民がそれを同等に利用するのはただ乗り、フリーライダーではないかという批判も起こる。

現在の地球にはたくさんの国がある。
現在、国家とは国民国家である。
つまり、各国はそこに居住している国民によって運営されているし、またそうしなくてはならない、という考え方が基本になっている。
後進国に生まれたからといって、気楽に先進国に不法移住するのではなく、国内にとどまってその国を良くしようと努力するのが正しい、というのが国民国家の建前なんだね。

日本だってそう。
第二次世界大戦直後、戦争に負けた日本には米国軍が駐留し(今も駐留しているけど)、多数の米国軍人がいた。
日本人女性の中には米国軍人と結婚してあちらに移住する場合もあった。
当時、米国と日本の経済格差はきわめて大きかった。あちらに渡った日本女性は、経済的にははるかに恵まれた暮らしをすることができた。
しかし大多数の日本人は、日本にいたままで必死に働き、日本の経済力を向上させた。
その結果、1980年代になって日本は米国やヨーロッパ先進国の生活水準に追いついたのだ。

もう一つ、この映画を見てどこかオリのように残るのは、主人公がチェスの天才だということ。
天才なら家族ともどもフランスにいられる。
でも、どんな少年にもそういう才能があるわけでもない。
天才なら優遇される、というのは美談なんだろうか?
そういうことを考える私は、へそ曲がりなのだろうか?
odyss

odyss