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スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのBitdemonzのレビュー・感想・評価

3.9
映像表現の点だけで言えば、現時点でのこれ以上のものはない体験が出来ることは間違いなく、コミック世界への没入という単純にアニメや実写とも異なる究極的な2.5次元の視覚化された空間がそこにあったと確信でき、そのクオリティは前作のモノをも超える情報量と解像度で示される。この点だけでも充分に満足できる要素ではある。

また、“多元宇宙”という並行世界線的な要素を「スパイダーマン」という一作品から派生した様々な造り手による同作品のいわゆる設定の相違の回収そのものをエンターテインメント化するというコミックでの発明を、映像として展開する意義も含め、作品やレーベルの垣根を越える楽しさを提示できるブレイクスルー的な可能性を、今作では(コミックを初めにマンガ、アニメ、ゲーム、レゴ、そして実写まで含めたクロスオーバー…)更に強めた印象があり、それらが一堂に会し躍動する場面が個人的には一番期待していた部分だった事もあり、その欲求はかなり満たされたと思う。

ただし、ざっくりとした概要の説明はあるものの、前作の視聴とある程度の予備知識の必要性を感じる構成は、革新的な映像体験を楽しむには多少ハードルの高さもあるように思える。

また、これまでのスパイダーマンに共通する“主人公の成長”と家族や周囲との関わりを捉えた要素は、前後編に作品を分けたことでたっぷりと時間を掛けられる事が出来たが、やや冗長と感じられ(作品への期待を何処に向けているかにもよるが)、もう少しタイトにならなかったのか、と思うところもある。



後編に続く、と解って観に行ってるので、スッキリと終わらないのは覚悟してたとはいえ、地味な見た目のヴィラン(とんでもなく強力な可能性を秘めてるとはいえ)、後半はそいつ放ったらかしに別な問題が発覚して追われ続ける主人公……この「前編」においては展開における気持ち良さ、カタルシスは少なかったと感じました(それでも元は取れる映像体験はあったと思いましたが)。

その分、後編でドカーンと巻き返してくれるのか相当期待値上がっちゃいますけど、あえてこの内容でゴーサインを出した、ということは何か勝算があるのかもしれないですね。
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