山岡

悪い奴ほどよく眠るの山岡のネタバレレビュー・内容・結末

悪い奴ほどよく眠る(1960年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

土地開発公団とゼネコンによる不正入札と巨額の贈収賄。事件の揉み消しのために父親を自殺に追い込まれた主人公・西(三船敏郎)が公団の副総裁の娘婿、そして副総裁の秘書として内部に潜入。腐りきった公団のお偉方連中に復讐するストーリー。

オープニングの副総裁の娘・佳子と西の結婚式が、まず秀逸。前後して公団の契約課長補佐が逮捕されたということで、記者も大勢駆けつけており物々しい雰囲気。出席者のぎこちない挨拶やウエディングケーキへの悪戯など、お祝いの場に似つかわしくない不穏な空気が流れる最高の場面だ。また、公団の幹部に副総裁の家族、ゼネコンの幹部など主要キャラクターが勢ぞろいしており、脇にいる記者により自然な雰囲気でキャラクター紹介が行われる。映画の主要登場人物のキャラクター紹介と事件のアウトラインを記者のセリフと不穏なビジュアルでもって見せるとてもスマートな場面だ。

映画中盤では、西の復讐により観客にカタルシスを与えつつ、同時に西が復讐に至るまでの動機についても説明していく…時代劇のワイルドな三船もかっこいいけど、復讐の念をひた隠しにしながら、澄ました顔で秘書を務める『スーパーマン』のクラーク・ケントのような三船の姿が余りにもかっこいい…復讐の鬼となり父の敵を責める本来の姿も良いが、あふれ出る感情を必死に抑える、押して忍ぶ表情にこそ、強く胸を打たれる!

クライマックス、西は契約課長和田を嵌め廃人にし、さらにその上司の管理部長守山を誘拐し、事件の真相を自白させるが、前後して素性がばれてしまい、最終的に事件を明るみにできぬまま、副総裁に殺されてしまう…。

ラストシーン、西を消して一息ついた副総裁がある人物に電話を掛ける。劇中では名前も声も明らかにされないが、おそらく自分の上司、公団の総裁と思われる人物。あれほどの巨大な悪党として主人公の前に立ちはだかった副総裁が、その人物に対しては受話器の前でも小物のような振る舞いを見せる…電話の切り際「今後の身の振り方につきましては、何分、よろしくご配慮を…」「では、お休みなさいまし…」「では失礼いたします…」と電話に深々とお辞儀した後、タイトル「悪い奴ほどよく眠る」ドーン!!事件を明らかにしようとした正義の主人公は人知れず殺され、最も悪い奴は姿を全く現さずすやすやと眠る…こんな完璧な終わり方があるだろうか!!

黒澤明の現代劇を観るのは初めてだったんだけど、率直に言って最高だった。
山岡

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