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フォルス・ポジティブのnetfilmsのレビュー・感想・評価

フォルス・ポジティブ(2021年製作の映画)
3.2
 コピーライターのルーシー・マーティン(イラナ・グレイザー)は夫のエイドリアン(ジャスティン・セロー)とマンハッタンに住んでいるという試みそのものが『ポッド・ジェネレーション』的で、大体察しが付く。夫婦は赤ん坊を求め2年間不妊治療に努めており、エイドリアンの元教師で不妊治療の第一人者であるジョン・ヒンドル医師(ピアース・ブロスナン)を訪ねることにする。かつては『007』のジェームズ・ボンドを演じたヒンドル博士の薄ら笑いとクリニックのデジタルで殺風景な雰囲気に寒気を覚えるのは何も私だけではあるまい。彼が発明したという不妊治療の最適解を使ってルーシーは念願の妊娠を果たす。妊娠と出産という極めてデリケートな問題を魔法使いのように一網打尽にする名医ヒンドルの存在も凄いが、超音波検査中に、彼女は双子の男と女の三つ子を妊娠していることがわかる。不妊治療を試みる夫婦ならある程度理解はあるだろうが、双子や三つ子を身籠るリスクも常に横たわり、残念ながら減胎手術の可能性にも縛られる。日本では減胎手術とは呼ばず、多胎・減数手術とも言われる手術である。

 その瞬間、夫婦は3人の生の内、2つの生を奪わなければならない選択に縛られる。それは実際に妊娠を経験したルーシーにとってもエイドリアンにとっても苦渋の決断となる。夫は双子の男の子を望むが、妻は遥か昔から娘との生活をずっと夢想して来たと夫に告げる。その時点では夫婦の考えは完全に割れるが、腹を痛めて子供を産む女性の考えを尊重するしかない。その辺りの苦渋の選択を捉えながらも、やがて夫人のせん妄というか妄執い囚われると言う展開が『ブラック・スワン』及び『オープニング・ナイト』及び『ローズマリーの赤ちゃん』そのもので、国家や企業が妊婦を決められた枠の中に敷こうとすればするほど、母親はかえって管理の先の本能的な自由を追い求める。その点では先の『ポッド・ジェネレーション』とほとんど同じ主題ながら、あまりにもグロテスクな陰謀が明かされるクライマックスには唖然とさせられた。それは今、「俺の子を産め」と発しながら部屋の鍵をかけ、携帯電話を没収し、無理矢理に強姦した疑いがかけられる例の大物とほとんど同じ世界線で、歪んだ優性思想に沿ったあまりにもグロテスクな結末で、唖然とさせられた。当然、これはA24配給でも掛けられる劇場はない。
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