Arata

ベルファストのArataのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.0
ケネス・ブラナーさんのポワロを見始めたので、実は去年一度鑑賞したものの、レビューをつけていなかったこちらを再鑑賞。
そして諸事情あり1月6日の鑑賞分を、今更この月末になって書いている。


美しい現代のベルファストから、過去へと時間が移り変わり、そして映像はモノクロへと切り替わる。

1960年代後半の、北アイルランド紛争をリアルに描いた作品。


ベルファストへは、アイルランド旅行の際に、経由地点として立ち寄った事がある。
かの有名なタイタニック号が生まれた場所へ行ってみたりもした。

ベルファストの駅はターミナル駅でもあり、アイルランドの通貨のユーロと、北アイルランドの通貨のポンド、駅周辺のお店ではその両方で買い物が出来た事にとても驚いた。
1つの街に、2つの国がある事を感じた瞬間だった。


お母さんの、やっとの思いで支払い終えた分割納付の税金の、政府からの対応への感情は分からなくも無いが、それをきっかけに追加徴税がかかるシーンは何ともやるせない。
税金は、支払わなければならないのは当然だが、「黙っていれば払わなくても済んだかも知れないお金」を踏んだくられるのは、確かに憤りを感じる。
黙っていようが黙っていまいが、有無を言わさず支払うのならともかく、あのまま黙ってさえいれば、うまく誤魔化せていたのだとしたら、お父さんが怒る気持ちも分からなくは無い。
いずれにせよ、税金で困窮する家庭が生まれる国の仕組みはよろしく無い。
そんな私も、いわゆる税金貧乏の1人で、他人事では無い思いで見ていたので、この国の仕組みもあまり良いものではなさそうだ。


暴徒と共に物を盗んだ息子を叱る為、商品を返しにお店に戻るが、それどころではない状況で、結局持ち帰ってきてしまう。
昨日の正義が、今日はもう通用しないと言うショッキングな出来事。
それでも、家族で向き合う事で、明るく解決していく姿は胸にくるものがある。


モノクロによる閉塞感の演出と、対比する様な劇場でのクリスマスキャロルや、映画館でのチキチキバンバン鑑賞時のカラーなど、興味深い映像だった。
個人的には、クリスマスキャロル上演時の、雪の煌びやかさに、思わず息を呑んだ。
演劇と映画で、お祖母さんとバディのかけ合いが逆転するところも面白い。


主人公の少年の純粋な気持ち、それを踏まえた上での大人たちの返答、そして何よりお祖父さんの名言の数々、それらを通して、対立する事の虚しさ、平和への願いなどが感じられた。

特に、入院したお祖父さんがバディに向けて言う「言葉が通じない時は、相手が聞く態度に無いだけ、お前が何者であるかを忘れるな。」と言う内容の、私自身の経験からもそう強く感じるそのセリフは、大変心に響いた。
相手の声に耳を傾ける事が、何よりも大切なのだと再認識。



ラストの、ジュディ・デンチさんの顔面ドアップ、一抹の不安を抱きながらも未来へ走り去るバス、日常としてバスの横を歩く新聞を手にした通行人、それを見送り家へ戻り扉の前でうなだれるお祖母さんの姿、そこからの当時のベルファストに住む全ての人へ向けたメッセージと、とても印象的な連続するシーンだった。



全編通して、カメラアングル、カメラワーク、カットなど、映像の素晴らしさが際立つ。
宗教的で、政治的なテーマだが、子どもを主人公に据えた事で、もっと幅広い視野で内戦の悲惨さを感じた。

歴史的事実に詳しくなくとも、家族や故郷との繋がりや、それらとの不条理な別れと言った普遍的な内容に焦点を当てた作りなので、あらゆる人にとっても感情移入しやすいのではないかと思う。
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