うかりシネマ

オッペンハイマーのうかりシネマのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

戦後、ソ連のスパイ疑惑を受けて開かれたオッペンハイマーのための非公式の聴聞会を起点に、詰問に沿ってオッペンハイマーが戦前を回想していく形式をとる。とはいえ「現在」として軸足を持つのは回想の方で、原爆の開発・投下をピークに半生が語られていく。
それと並行して、5年後、オッペンハイマーと対立していたストローズの公聴会が開かれ、ストローズの側から見た戦前から戦後も語られる。

原爆を開発するオッペンハイマー、聴聞会でそれを語るオッペンハイマー、複数の証人による公聴会の三つのレイヤーが入り乱れるが、語りたいことが明確なので意外に混乱しない。
同じ実話ものとして『ダンケルク』の時系列シャッフルが失敗したと思っているので心配だったが、最新の二つの時間軸がクライマックスを過ぎて交差するのはカタルシスがあり、時系列を入れ替えることに意味があってよかった。

エピグラフでは神から火を盗み永遠の責め苦を負わされたプロメテウスの逸話が引かれる。
戦中は核の使用に躊躇のなかったオッペンハイマーは、戦後になってようやく良心の呵責を得るために断罪されたがった。

人類が作った最大にして最悪の兵器である原爆を物語るために、本作では爆発を想起させる重苦しい劇伴が何種類も使われる。内なる予感として、恐怖として、苛むように、その使い方も多岐に渡ってストレスを与える。
万雷の拍手と地響きのような足踏みも、醜悪に爆弾のイメージに重ねられる。またメタファーとして雨粒、降りしきる豪雨のイメージも使われる。

計算上、たった一発の(それが実験であっても)原爆が連鎖反応を引き起こし大気に引火し、世界の全てを焼き尽くす試算が出され、その可能性が“ほぼゼロ”とされるシーンがある。
これが相互確証破壊の世界を指しているのは明白で、本作が警鐘を鳴らすのは核を作ったことそのもの、核戦争に対してである。

シラードの請願書を拒否したオッペンハイマーを描き、科学者は想像に恐怖するが大衆は実物に恐怖するという台詞を入れたことから、本作は意図的に現在も続く原爆神話を批判的に捉えている。
懸念されるような誤った認識はなく、その上で伝記映画をスペクタクルに演出している。