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オッペンハイマーのtaatのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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まず、作中で描かれているものと、描かれていないもの、その情報の取捨選択について大きな争点が生まれていることについて考える。

具体的には原子爆弾が投下された被災地の描写についてだが、本作をオッペンハイマーの主観で描くという制作上の軸がある以上、その描写が映っていないことに違和感は無かった。

広島での先行試写会にて、森達也監督が「実際の広島・長崎の映像を入れればいいとか、そんな問題じゃない」と述べている※1が、個人的にも、その描写があるから良い、無いから良くないと割り切って評価することはできないと思う。

問題があるとすれば、クリストファー・ノーラン監督の作風まで遡って指摘する必要があると感じる。

ノーランは本作をあくまでオッペンハイマーの主観で描きながら、彼に感情移入させたり、逆に彼を批判させたりというメッセージ性をあえて排除した作り方をしている。

本作の主題はオッペンハイマーの半生を彼と同じ目線で映画として体験することであり、俯瞰的な彼に対する評価というものは描く意図が無い。

そして、大事なポイントは、上記のような「メッセージ性より、映画としての体験を重んじる」という作風はむしろノーランの魅力でもあるということだ。

もし原爆や戦争の悲惨さを伝え、明確に批判する作品を見たいのであれば彼の監督作には期待するべきではない。
(スパイク・リー監督とノーランとのやりとりからもそのような考え方がうかがえる※2)



正直なところ、自分は本作を日本人的文脈なしに語ることは、不可能に近い。
本来であれば、ホイテ・ヴァン・ホイテマの撮影とか、キリアン・マーフィーをはじめとした役者陣の演技など、映画としての演出力や表現力に注目したいが、今回はその気になれない。

とにかく、映画『オッペンハイマー』については、作品を見て何かを語ったり、誰かと話し合うということ自体がすごく重要なことだと思う。


※1
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1019539a362287d10f5cd7f83f353bbf18987046

※2
https://news.yahoo.co.jp/articles/4410da7cf53993bde37e631e3b914f0f4acfb4e6
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