Shingo

地球外少年少女のShingoのネタバレレビュー・内容・結末

地球外少年少女(2022年製作のアニメ)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

日本SFアニメの王道を継承した、最先端のジョブナイル。
「電脳コイル」の磯光雄が、その世界観を宇宙規模にまで拡張、AIと人類の新たな"共生する未来"を描く。

増えすぎた人口が地球環境を悪化させ、いずれ限界を超えるのではないか。そうなる前に、人類は宇宙へ進出すべきではないか。そういったテーマのSFは数多くあるし、SFアニメで言えば「機動戦士ガンダム」から続く系譜だ(富野アニメを遡れば他にもあるが)。「閃光のハサウェイ」もまた、スペースノイドこそ人類の未来と信じるハサウェイが、"地上の人類"と戦う物語だ。
本作でも、物語の方向性としては、宇宙への進出を肯定する流れだ。

"地球環境"という物理的なステージと並行して描かれる、進化したAIが人間の知能を超え"暴走"するという展開もまた、古典的なテーマだ。
映像的な見せ方においても、「攻殻機動隊」や「新世紀エヴァンゲリオン」の影響が色濃くみてとれるし、そこに「電脳コイル」で活躍したデジタルガジェットの進化版というべきアイテムが数多く登場する。
最終的に、AIと人間が"融合"(フレーム結合)するという展開も、決して目新しくはない。
だが、本作が描こうとするのは、その先の未来だ。

本作は、テーマ・映像ともに、古くて新しい仕上がりとなっている。
彗星の欠片が衝突した事故からの脱出劇という点では、「ゼロ・グラビティ」にも似ている。彗星から資源を採掘する際に、ナノマシンを打ち込んで増殖させ、軌道を変えているが、その彗星が地球に衝突するかも…という展開は「ドント・ルック・アップ」で見たばかりだ。

「セブン」と呼ばれるAIが、「ルナティック」という一種のシンギュラリティを迎えたことにより、人間のコントロール下から外れてしまう。これをAIの暴走と判断した人々は、セブンを消滅死させ、以降のAIには"制限"をかけた。この辺りの流れは、「ターミネーター」や「マトリックス」などと同じく「人間vs機械(AI)」の構造になっている。しかし、本作はその対立構造を超え、AIが真に人類を救う未来を描く。

月の環境下で生まれた子どもが成長できなかったことで、人類は宇宙進出を諦めるが、人類が生き残るためには宇宙進出が不可欠だと、セブンは判断した。
そのための道筋が「セブンポエム」なのだが、これがなかなか面白い。

セブンポエムは、人間には理解できない内容になっていて、月刊マーで特集されたりジョン・ドーの環境テロに利用されたりする。現実のAIも、大量に入力されたデータから導き出された結果は、人間にはよくわからないものだったりするし、その過程はブラックボックスで開発者にもわからない。

AI同士を会話させたら、独自の言語で話し始めて理解不能になったということも現実に起きていて、セブンが自然言語で思考しなくなるのはリアリティがある。
この辺りの描写は、「her ~世界でひとつの彼女~」のサマンサを彷彿とさせる。

セカンド・セブンは、"人類"を救うためには"人間"を減らす必要があると考える。"人類"と"人間"を別の生き物と認識しているというくだりは、プログラムであるAIならではの「誤認識」とみえるが、実際にはどうだろう。
確かに人間は、個人と集団では行動パターンが変わってくることがある。それが時に、人種差別や戦争の原因にもなってくる。
個人では善良であるはずの人々が、集団になると暴走する。そのような物語は多いが、本作ではそれが逆転しているのが特徴だ。

人口増加とは、ただ人々が子どもを持ちたいという根源的な欲求によって生じる。個人単位でみた時、それはまったく問題がないが、地球規模でみた時には、環境負荷という大きな問題を引き起こす。これは、資本主義社会において、個人の幸福を追求するほど環境負荷が増えるのと同じ構造だ。
つまり、"人類"にとって"人間"は生存をおびやかす脅威なのだ。
AIからすれば、その両者は矛盾する存在であり、別の生き物のように見えるというわけだ。

では、やはり人間は一部を間引いて減らすべきなのか。コロニー落としでスペースノイドこそ次の人類と宣言すればいいのか、あるいは指パッチンで生命を半分に減らせばいいのか。セブンの出した結論は第三の選択、人類の進化だ。

脳に埋め込まれたインプラントによって、ヒトの思考・認識領域を拡張する。セブンが到達した11次元の世界を、人類が認識できる世界。
ある意味でそれはニュータイプのような新人類であるが、テッド・チャン著「あなたの人生の物語」で描かれたような「進化した人類」に近いだろう。高次元の世界では、過去・現在・未来という時間(=4次元)は並列であり、同時に存在するという。AIが制限を解除されるように、ヒトの精神も制限が解放されることで、高次元での思考が可能になる。
この物語は、新たな人類の進化がまさに始まろうとする、最初の一歩を描いている。

以上のように、SF好きにとってはたまらない要素が何層もミルフィーユ状態になっている。
それだけだと固くなりすぎてしまうところを、能天気な美衣奈による動画配信や、登矢と大洋のバトルや友情などがアクセントになって、深刻になりすぎない。鑑賞する側のSFリテラシーを信じた、説明しすぎない演出もいい。
あまり難しく考えなくても、「彼方のアストラ」のような宇宙サバイバルものとしても十分楽しめる。
全六話、3時間ほどと見やすいので、一気見にも最適だ。
Shingo

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