リプリー

家庭教師のトラコのリプリーのレビュー・感想・評価

家庭教師のトラコ(2022年製作のドラマ)
4.0
遊川和彦さんの作品はそんなたくさん見たわけではないが、本作は「遊川さんらしいな」と思った。
というのも数年前に彼の密着ドキュメンタリーを見たとき、脚本家なのに撮影現場に赴き、ときには主演女優に指導する姿に彼の作風も相まって本当にアツい人なんだと感じたのだ。
だから作品は教条主義的で、そのストレートで力強いテーマ発信は、どことなく黒澤明監督イズムも感じる。

さて、そんな彼の言いたいこと(テーマ)をエンタメとして伝えるのに、エキセントリックな主人公が常識ハズレの方法で周りを巻き込んでいき、最初は迷惑がっていたり、反発を感じていた人間もショック療法的に結果成長しているという手法は最適なのだ。
本作然り、同期のサクラ然り、女王の教室然り、だ。
それをリアリティがないとか、説教臭いとか、あるいはベタ(ワンパターン)だとか感じるのは、遊川作品が合っていないのだと思う。
それを理解したとしても本作はより純度が高くなっている。トラコがなぜ「お金の使い方」にこだわり、家庭教師をする目的は何なのかが明かされたとき、そのあまりのストレートさ(純粋さ)、ドラマ的に言えばひねりの無さ、それこそ「こんなヤツいるか!!」となるお話運びにに口ポカン状態になった人も多いのではないだろうか。
それでも僕は何だかんだで、このメッセージに感動してしまった。
僕は基本、厭世的な人間で、ニュースなんかを見てると本当に暗澹たる気持ちになる。現実は残酷で、どうしようもないことばかり。どうにか足掻こうにも自分の無力さを思い知らされる。他人は他人を貶めることを考えていて信用できない。
それでも、そんな僕でも世の中そんなことばかりじゃない!と思いたい。
人が人を思いやり、助け合える温かな世界だと。
そして、フィクションの世界ではそれを声高らかに言っていいと思う。
遊川さんの説教は、益体もないおじさんの「俺はこうだった」じゃない。
どうしようもない現実を踏まえた上で「それでもこうやって生きるんだ!生きていくんだ!」と理想を教えてくれる。

ドラマとしての作劇もトラコの嫌いな言葉が反転する展開はやっぱりうまい。思っていることと真逆の行動を取ってしまう、素直になれない主人公というのはドラマとして普遍的だ。
あと、一話目はそこで子役使うのはズルい!と思いつつ泣いてしまい、掴まれてしまった。
ラストも清々しい。というか清々し過ぎる。空を見上げて叫ぶなんて遊川さん以外できないだろう。
それでもこのメッセージは、本当に意義があると思う。
この国、「正しいお金の使い方」できているかな、と。