猛烈な暴力は存在しないが、母は弁当を作る余裕も無く、ギャンブルに興じる父に子らは怯え、姉達は妹を顧みない機能不全家庭。
物音や親の一挙一動に怯える生々しさ。
コットの居場所は家庭にも学校にも無い。
夏の間を過ごす事になった親戚の家での生活はそんな陰鬱な生活から一転、穏やかな優しさをコットに与えてくれる。
フィックスを中心とした落ち着いた撮影、自然光重視の照明、被写界深度浅めのフォーカス、上品な映像で擬似親子の物語を捉え続ける。
本作を「母と女」の映画だと思って観ていた自分に、いやいや最初から「父と娘」だったじゃん…とツッコミを入れる事になる終盤戦が素晴らしいの何の。
この先に安易なハッピーエンドや平坦な道はないのだろうな…と苦々しい思いを抱きながらも、心掴まれる完璧なラストショットと台詞。血縁ではなくその関係性にこそ「親子」は宿る。
不器用な男の「そっとお菓子を置いて去る」愛おしさ。
子供に対して底意地の悪い邪気をぶつける老婆の存在だけで「古き良き田舎を描いたファンタジー」から距離を取ったのも最高でした。
傑作。
