パイルD3

水深ゼロメートルからのパイルD3のレビュー・感想・評価

水深ゼロメートルから(2024年製作の映画)
4.5
【水深ゼロメートルから】

JKなめんなよ!というイキったセリフが耳に残りますが、舞台は夏休みの高校、グラウンドでは野球部が練習していて、その隣の水を抜いて砂の溜まったプール、これがタイトルにある水深ゼロメートルを指している

体育の特別補習としてプールの底の砂掃除をさせられる女子生徒2人(仲吉玲亜、濱尾咲綺)と、水泳部の同級生(清田みくり)、水泳部の先輩(花岡すみれ)の主に4人のアンサンブルによる、高校ライフのワンシーンを切り取ったドラマ…

「アルプススタンドのはしの方」をご覧になった方は、ある程度作風はイメージ出来ると思いますが、全国高等学校演劇大会で最優秀賞の戯曲をリブートして映画化した作品でした

こちらは四国地区の大会で文科大臣賞を受賞したローカル色が加味された高校演劇戯曲の映画化です


《高校演劇部》
高校演劇には少し思いがあって、私は籍はサッカー部でしたが、先輩の部長に強引に誘われて、2年間ほど演劇部に客員参加していたことがありまして、このワンシチュエーションスタイルの雰囲気はノスタルジーそのもの。
いかにも高校生の舞台劇の匂いが立ち込めていて、思わぬトリップ感がありました

当時の演劇部は、県大会に出てくる他校の部員もそうでしたが女子部員の方が圧倒的に多かったんですよね
今でもその流れがあるのかどうかは知りませんが、この作品も女子高生にフォーカスして、彼女らの雑談風に話が進みます。

《水深ゼロメートルのプール》
空っぽで砂だらけのプールで、水泳、踊り、メイク…と、全員が自分の今最も関心のあることを体現するところがポイントです

キーワードとなるのは、舞台となる徳島らしい盆踊りですが、主題をかすめるのは、“見ることより見られること“に対する恥じらいと、“次へと踏み出すこと“への意志であり、彼女たちの成長への瞬間と、未完の萌芽を見せます

《JKディスカッション》
次第に彼女らの言葉が単なる雑談ではなく、
愚痴に始まり、成長のプロセスで避けられない抗いや焦り、大人との距離感や理屈に対する了見のぶつかり合い、本音による極論攻めの応酬、女性同士の相互批判、理解へと変化して行く微妙な想いを拾っています

このあたりのセリフ劇は、濱口竜介監督の作品に出てくる自由討論式の解答無きディスカッションを思わせるやりとりが展開して、緩やかながらエキサイティングです

《若さのバラバラ感》
女性の視点から見るとまた違うと思いますが、ナイーブなやりとりと言うより、腹の内をバッサリさらけ出していく感じです
体育の女性教師(さとうほなみ)とのメイク論戦は見もので、登場シーンは少ないながら、野球部のマネージャー(三浦理奈)の健気な存在感も印象的です

全員が自分を作り上げようと先を見つめ始めていて、目的意識もモチベーションもバラバラなのですが、これこそが高校時代の仲間たちの空間、無駄なことを無駄と思わない、迷い続けながらも、あらゆることに一途にもなれる唯一の時節

この作品が、どのあたりの層に響くのかはまったくわかりませんが、脚本は当時高3だった女子高生(中田夢花)の手によるものです。
なんせ高校生ですからね、拙くて当たり前ですが、全国レベルともなると、拙い中にもその年齢でしか表現し得ない鋭敏な感性がキラリと光っています。

ラストの小さな興奮をもたらす呼吸は絶品!


《4.5》
そんな自身の経験もあり、高校演劇部で頑張っている皆さんへのエールと、高校演劇リブート企画が続くことに想いをこめての4.5ptです
パイルD3

パイルD3