途中までの「寂しい人妻を抱いた後で「思い上がるなよ」と吐き捨てるヤリチン復讐譚」のままエロと娯楽を増すことはできたろうが(きっと大衆誌レベルではその手の話もあったのだろうが)、そうはならない。
もしくは「絶対にバレてはならない」というサスペンスをもっと追求することもできたはずだが(もちろん描かれてはいるが)、そこまで重きを置いていない。
監督は『カティンの森』を含むアンジェイ・ワイダの後期作品のプロデューサーでもあるそうで、やはり戦争と差別の不条理を真正面から描き、静かながら雄弁に作品のテーマを語る秀逸なラスカットに着地させた。素直にうまいなぁと唸った。また、CGを含む撮影、美術、衣裳などもよかった。特に焼夷弾からの路地の爆風を描くシーンは素晴らしく、リアルな恐怖を感じた。
時間が経てば記憶が色褪せてくるものだが、新たな事実や可能性が出てくることもある。やはり愚かな歴史を繰り返さないためにも戦争を描く映画は必要だと思うし、様々なアプローチがあっていいと思う。『フィリップ』は導入こそ異色ではあるが、誠実かつ不変のメッセージを備えた秀作だと思った。