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スター・ウォーズ:ビジョンズ Volume 2のnatsuoのレビュー・感想・評価

4.7
「世界の総力をあげて描く、美のSW」

きましたよS2。1もかなり好きだった自分にとっては待ち望んでいたシリーズ。本シーズンは世界各国のクリエイターが集結したそう。5/4(May the 4th be with you)に配信開始。

各話ごとに短く感想を述べていこうと思う。



①Sith (シス)
制作:EI Guiri Studios (スペイン)

とてもアーティスティックで芸術性の高い作品。「絵画」「アート」を通じ、ライトサイドとダークサイドを鮮やかに描いている。かなりの極彩色が続くものの、そこに立つシスの黒き姿は圧倒的な闇を感じられる、良いコントラスト。ライトセーバーデュエルも美しい。残像というか残光というか、立体的で躍動のある表現の仕方は見事であった。
何より、光と闇をシスの視点で描くのは新鮮であった。ジェダイの、ヒーローの物語であったSWだが、シスもシスなりの葛藤があるのだ。光でありたい闇ももちろんいる。真っ黒な自身に”色”という光、希望を持ちたいというのは、逆に親近感が湧くのではないだろうか。誰もが心に闇を持ち憎しみや恐怖を感じる存在なのであるから、そんな我々の背中を少し押してくれるいい作品だ。
エピソード1からかなり責めている上に実写ではまずできない表現を活かしてきているので、シーズン2も期待できる、良い入りだった。
ドロイド、E2かわいい。これからも登場して、どうぞ。また、グリーヴァスを彷彿とさせるビークルにも大興奮であった。



②Screecher's Reach (スクリーチャーズ・リーチ)
制作:Cartoon Saloon (アイルランド)

ソング・オブ・ザ・シー,ブレンダンとケルズの秘密、ブレッドウィナーのスタジオが送る、個人的にかなり期待していた作品。2話目から登場。
このスタジオとしては期待通り、SW作品としては予想外の作品だった。言ってしまうと、「悲劇」の作品。今までSW作品で我々に植え付けてきた、ライトサイドの正当性とダークサイドの完全悪という価値観を逆手にとってくるよう。しかしよく考えると、SWにおける光と闇の描き方をきちんと踏んでいるのがすごいところ。ダークサイドの恐ろしさとともにその身近さを実感することになる。純粋さというのも一つの弱さとなる。これは明らかな社会風刺であろう。どうしても戦争紛争が絶えないこの世において、子供の純粋さを利用してしまうことも絶えないのだ。残酷すぎて信じられないことだが、現実なのだ。それを暗示的であるものの真っ向から描いている本作はかなりすごい。
SW作品としてはもちろん、一つのアニメ作品としてもかなりの傑作であると思う。



③In the Stars (星の中で)
制作:Punkrobot (チリ)

とても可愛らしく、しかしかなりリアリティのあるストップモーションによる作品。ビジョンズは一気見することで前後との大きな作風の違いが楽しい。
帝国"の恐ろしさをアニメーションでかなり痛切に描いている。戦争や紛争、災害よりも一方的な支配の方が恐ろしいのだと実感させられる。このかわいらしいタッチで本家のTIEの音は流石に恐ろしい。
対して自然、星空はとても美しく映る。帝国に微力ながら立ち向かう姉妹も同じく美しく映る。とても巧みで素晴らしい対比。光と闇という簡単な表現ではなく、有機と無機というもっと説得力があり鮮明に映る表現を我々に見せてくれる。
最後はとても切ない。SWという宇宙が舞台の作品で、とても上手な締め方でありながらもゾワっとする。
はたまた傑作が出てしまった。



④ I Am Your Mother (だってママだもの)
制作:Aardman Animations Ltd (イギリス)

おお、アードマン。ウォレスとグルミットやひつじのショーンで有名な英国スタジオがなんと参戦。前の3作がかなり重たかったので、アードマンのかわいらしいアニメーションには癒される。タイトルもセンスが良い。
ストーリーもとても面白い。小ネタ、細かいディテールにこだわりが感じられて観ていてすごくワクワクした。小型デススターは罪すぎる。製作陣からのSW愛が溢れ出ていてファンの自分としても大満足だった。
親子(愛)というSWにおける大切なテーマも丁寧に描いていて良かった。王道でどんでん返しなどは全くないのだが、微笑ましく心が浄化されるようないいエピソードだった。タイトル回収の仕方も見事。
この作品を4話目に入れたプロデューサー陣(ルーカスフィルムなのかディズニーなのかはわからないが)にも拍手。この作品以外もだが、絶妙でちょうどいいエピソード構成である。是非1〜9まで立て続けに見ることをオススメする。



⑤ Journey to the Dark Head (ダークヘッドへの旅)
制作:Studio Mir Co., Ltd. / ㈜스튜디오 미르 (韓国)

お隣、韓国からの作品。とても日本アニメ(ジャパニメーション)に近いタッチ。登場人物も舞台も東洋寄りになっているので、(SWとしては違和感も少しあるが) こちらとしてもとても見やすい作品。もはや某誠さんの作品かと見紛う(かなり本スタジオが影響を受けたのは間違いないだろう)。
カノンにおいていつの時代になるかはわからないが、ジェダイ評議会も出てくる豪華な舞台。ジェダイでもシスでもなく、宇宙と時間全体を俯瞰してそれを記録している団体も登場する。SWにおいて歴史記録というのは今までなくて(歴史書物は出てくるが)、かなり新鮮。
戦闘シーン含めやはりジャパニメーション味が全面的に出ている。しかしかなりクオリティが高い。ライトセーバーデュエルはもちろん、一つ一つの場面で尋常じゃない作画の美しさ。本国の我々でも脱帽するだろう。注目されるべき作品であるし注目されるべきクリエイターであった。
そして話もとても良い。一見はわかりやすいアクションアドベンチャーなのだが、光と闇、正義と悪の表裏一体性、むしろその区別などないのだという哲学的なテーマが眠る作品。このテーマは現代社会への風刺でもあるのだと思った。それをSWらしく、とてもわかりやすく映像として表現してくれる。先も述べた通り、東洋寄り、つまり東洋思想が滲み出ている作品であるので、これまた東洋の影響を受けたSWとの親和性は言うまでもないだろう。ただの作画クオリティが高いアニメでは終わらない、一度立ち止まって考えさせられるような良くできた作品であった。




⑥ The Spy Dancer (スパイ・ダンサー)
制作:Studio La Cachette (フランス)

芸術大国フランスからの参戦。リアリティはないものの、とても美しいアニメーションである。
③「星の中で」同様、帝国に立ち向かう反乱者側の話。③と異なるのは、フォース感応者が不在なこと。”帝国”という圧倒的な存在を前に、主人公たちは彼女らなりの方法で闘おうとする。まあフォースがないとはいえ主人公ロイやエティスは尋常じゃなく強い。しかしなんといっても、「彼女らなり」のやり方で戦っているところが格好いい。ロイは本当に美しいし格好いいのだ。白と金の大きな衣装は、美と光の象徴であり”希望”でもある。
EP8(自分は許していない作品)はずるいもので誰にでもフォースがあると暗示していたが、本作はフォースがなくても、特別ではなくても困難に立ち向かえることを教えてくれる傑作。そしてEP6でのアナキン(ヴェイダー)の改心、EP9でのベン(カイロレン)の改心に準えられるように、親子愛の素晴らしさを強く訴えてくる。SWは家族、親子の物語だと考えているのだが、正にそれを踏襲し切なくも美しく描いている。最後のビーコンの信号は鼓動を彷彿とさせ、愛を象徴しているのであろう。
ジェダイもシスもフォースも出さない中、良いSWらしさを強く表現している、かなりの傑作であった。



⑦ The Bandits of Golak (ゴラクの盗賊)
制作:88 Pictures (インド)

やっぱ強いなぁインド。インド文化を包み隠さず、寧ろ舞台をSWというよりインドに寄せて描いていることに強さを感じる。風景、建物、音楽、戦闘、食事、要所要所でというより全体的にインド味を感じることができる。
そしてインドといえば家族。本作では強い兄妹愛を描いている。お互いを信頼し、兄妹であり仲間である2人が愛おしい。特に、妹の方”だけ”がフォース感応者という設定が見事。とても頼りになるし勇気のある兄は、フォース感応者ではないのだ。かなりの英断だと思う。まず某D社がこれを許したのに驚き。丸くなったのねミッ◯ー。しかしやっぱり女性の活躍が目立つ本シーズンではあったので、これもそうでしょと思われてしまうかもしれないのが悲しいところ。自分は男女の区別とか本当にどうでもいいと思っているタチなので、このような考えがあることに憤りを感じてしまう。強い女性も強い男性も格好いいんだよ。
というと、本作で出てきたおばちゃんは最高。ああインドだなぁと思いつつ、めちゃくちゃ格好いいおばちゃんに惚れてしまった。評議会よ、このおばちゃんに何故気づけなかったのだ。
最後はきちんとSW。”修行”、つまり俗世から離れることを感動的に描く。一つの笛が美しく映る。また美しく奏でられる。素敵な締め方であった。



⑧ The Pit (穴)
制作:D’art Shtajio × Lucasfilm Ltd. LLC (日本 × アメリカ)

ようやく日本スタジオの登場。といっても、日本発の黒人経営スタジオだそう。かなり高いクオリティの作品をみせてくれた。本シリーズの中でも際立って良い作品だったと思う。
最も”帝国”を恐ろしく描いた作品。奴隷を生々しく見せ、帝国の非道さを痛いほど訴えてくる。このスタジオのことはあとで調べてわかったのでまだ良かったが、事前に知っていたら辛くて見れなかっただろう。あまりこう言うのは気が引けるが、これは黒人が作った作品なのだ。ただのSF作品、遠い昔はるか彼方の銀河系で起こっている話では済まない。このようなことは現実で起きていた。この地球上で。実際、本シリーズで唯一だろう、主要キャラが死亡する。この時のトルーパーと言ったら。人の命をなんだと思っているのだろうか。見ていてとても胸が苦しかったしやるせない気持ちでいっぱいだった。
しかし、「光に従え(Follow the lights)」という言葉に感動させられる。やはり、常に我々に希望を与えてきたSW作品の一つであることを認識させられる。自分は人種差別などの被害者ではないが、強く背中を押してもらえた。寧ろ、今の世の中をなんとかしないといけないと思った。都合がいいわけではないが、白人でも黒人でもないからこそ、自分に何かできることはないのだろうか。かなり考えさせられた。
現在も続く人種差別。性差別も然りだが、本当に反吐が出る。人間は人間として、個々の個性、アイデンティティを尊重すべきではないのか?我々は絶対にできるはずなのだ。自分はこの問題から目を背けず、本当になんとかしたいと思う。苦しんでいる人を救ってあげたいと思う。そして辛い時、苦しい時、病んでしまいそうな時、そんな時は「光に従え」。SWほど明確ではない現実だが、闇に堕ちることは穴に落ちること。閉塞され疎外され、最悪助けなど来ないかもしれない。だからこそ「光に従え」。その「光」を、自分は作り出したい。そう思った。



⑨ Aau's Song (アーウの歌)
制作:triggerfish (南アフリカ)

とうとうラスト。
今までとは打って変わって、とてつもなくかわいらしいストップモーションアニメ。ストーリーもかなりファンタジー色が強く、おとぎ話のよう。明確な敵(帝国やシスなど)や危機を感じる大ハプニングなどはないのだが、楽しくて最後はちょっと感動させられる作品。
やはり親子愛の話。これは可愛らしくて癒される親子愛。本当に素敵。他のSW的な要素はカイバークリスタルくらいで、どちらかというと温かく優しい短編アニメを観ている気分。主人公の女の子もフォースというより特別な歌声の使い手。とても美しい歌声である。9作の中で最もSWらしくないのだが、これもこれでとても良い。すごく好みだった。
また、ストップモーションアニメではあるものの、とても良くできた背景とカメラワークに脱帽。自分はアバターをイメージしたが、惑星コルバの風景めちゃくちゃ好き。美しすぎる。そしてどこか優しい。断崖絶壁ばかりだが、自然の華やかさと空の青さが優しくコルバに迎え入れてくれるよう。落ち着いて親子を見ていられる。
9作を通してでもあるだろうが、最後に希望をみせてしっかりと背中を押してくれる。うん、この作品が最後で良かったと思う。色々と感情が忙しかったビジョンズ2だったが、最後には温かい気持ちで終えられて満足だ。



と、長々と書いたが全体的にとても良いシリーズだったと思う。お世辞抜きで9作全部が傑作。SWの作品としても、一つの短編アニメーションとしてもかなり高いクオリティだと思うので、もっと評価されるべきだろう。
世界各国が誇る、アニメーションの強さを感じることができた。アニメーションの作画はもちろんだが、脚本の出来やSW愛も凄まじい。本当に傑作揃いで満足だった。

シーズン3も是非是非。1もそうだが、続きが気になるエピソードも何個かあるので回収してくれるとそれも嬉しい。
これからもSWサーガが、このような新しい方向で拡がっていくのを楽しみにしているし、映像作品がもっともっと素敵なものになっていくのを期待している。

[字幕]
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