泡沫

三体の泡沫のネタバレレビュー・内容・結末

三体(2023年製作のドラマ)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ホラーっぽいというかサスペンスっぽいSFは好みだし、中国の歴史や背景が絶妙にリンクしてすぐはまった。物理学者が主人公なので難解かと思ったけど、深い知識がなくても楽しめるように作ってある。その一助となるのが準主役の史強で、彼が科学者に説明を求める(というかつっかかっていく)ことによって私も難解な用語や現象についてなんとなくわかった気になれるんである。で、この人やたらたばこは吸うわ高圧的だわという古臭い人物ではあるのだが「昔の男なりのいいところがある」みたいなせこいエクスキューズとセットにはなってなくて、若い女性の部下の有能さを認めて「これから掃除はおれがやる」と素直に言える。そんな新世代の好漢・大史カッコいい。しかしやはり1番印象的だったのは葉文潔老師といえましょう。いわば悪役なんだけど、これが「きわめて冷静で強い意志と深い闇を抱えた高齢(設定)の女性科学者」というほんぽーじゃなかなかお目にかかれないような登場人物。青年期の回想も多いが愛想笑いはしないしセクシーな服や仕草とも無縁(まあ他の女性陣もそうだが)、母親の酷い裏切りを目にしていることから『母性』も彼女の拠り所とはならない。二重カッコな。大部分が男性の中にあって、彼女に幻想を背負わすような描写はほとんどなく軽い驚きすら覚える。しかし人物としてつまらないということではなく、淡々と語られる彼女の過去はこのシリーズ中でもっとも興味深いシーンだった。あの年代の一連のできごとこそがこの物語に通底するテーマであったかもしれない、科学とその担い手を攻撃する三体世界の手段やスローガンを叫ぶETOの様子は文革そのものではないか。ラスト、アジア戦区が総指揮を取るのはまあこの流れからしたら当然というものの興奮した。なんか「那个」とか言っちゃってはいるけどちゃんとR国もチームに入っている。M国の財布とか手下ではないのであります(幻想)。パンチカード読み取ったりタンカーをジワジワするシーンはとにかくもったいつけるので好み分かれそうだけど私は見入ってしまった。蝗害に苦しめられてきた歴史を逆手にとったポジティブなラストもいい。うーーーむネトフリ版は急いで見なくていいかという気になってきたな…とりあえず原作読みはじめた。

追記・ネトフリ版に比べ不十分といわれる文革描写だけど、中国の人にしてみればあの歌などで十分想起するものがあるだろうと思われる。
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