泡沫

岸辺のアルバムの泡沫のネタバレレビュー・内容・結末

岸辺のアルバム(1977年製作のドラマ)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ふるーいホームドラマと侮ってみ始めたが、かなり鋭く家父長制の無理を暴いていて驚く。父親の持つ、細かい世話を妻にさせ好きに感情を垂れ流し時に手を上げる、あの権威とプライドは単に経済的責任を負っているという理由だけで保たれているものだった。
妻は主婦だ主婦だと軽んじられ自分でもその通りだと思っているが、気軽に買えないような値段のワンピースを仕立てるスキルを当たり前に持っているし芸術を語り合うこともできる。不倫相手と別れる時の会話でもとても聡明で理知的な女性とわかるのだが、抑圧を受け入れることは当たり前でしかもそのことすら評価されない。娘はすねかじりのくせに生意気で、一体なんなんだとも思ったがこの人の「親に弱みを握られたくない」という台詞など感慨深い…かくあれと言われ続けた反動か、こういうような「昭和の娘」結構いるんじゃないだろうか。で結局、一番歳若く立場が弱い息子が家の矛盾をつきつけられて1人苦しむことになる。
決して悪い人間がいるわけではなく、家庭が瓦解してゆくさまはほんとにつらい…と思って見ていたが、避難先でこの期に及んで家族をがみがみ怒鳴り散らす父に覚えるいよいよ終わった感は妻に喝破される瞠目のシーンへとつながっていき、さらに水害当時の映像ではドラマへの感傷もふっとびそうになった。

突然家族団欒を言い出す父が個人的にリアルで驚いたが、大人になって考えると彼(ら)の気持ちもわかって痛ましくも思える。しかしこういう負担を強いて当然という家庭のありかたは人間の営みにそぐわない、と45年も前に看破されていたんだね。いまだそういうの求めてる界隈もあるけどなんかみじめだ。
ただ子どもをおろしたこと、その後平然と暮らしている(ように見える)ことで息子が姉を責めている点ははなはだお門違いだと思った。あと哀愁の扱いもモヤー。
最後、「みんなで割り勘」になるのは象徴的だなー。食べさせる/食べさせてもらうことで生じてきた権力関係がようやくここでフラットになったのだ…。ああ。

今見ても、というか今見るからこそわかることがありかなりよかった。単なるノスタルジーでしか顧みられないんだったらもったいないドラマだな。
泡沫

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