Arata

ミックステープ 伝えられずにいたことのArataのレビュー・感想・評価

3.8
YouTubeを開くと、この作品の宣伝動画がトップに表示されている。
正確には覚えていないが、「アメリカの女の子が、初めてブルーハーツのリンダリンダを聴いたら」、と言った感じのタイトルで、投稿者はNetflixだった。
NetflixのYouTubeチャンネルは未登録な上に、あまり観ているチャンネルでもない。また、私はブルーハーツは好きではあるが、ここ数日検索などをした覚えもなく、何故トップに表示され、おすすめされているのかは不明。


しかしながら、気になって動画を再生してみたところ、カセットテープのウォークマンをヘッドホンで聴いているその子の様子が、何となく面白そうだなと思い、Netflixを開き検索をしてみる。
YouTubeの動画の時は、てっきり何話かからなる連続ドラマだとばかり思っていたのだが、どうやら一本の映画なのだと知る。
時間も1時間半くらいで、さくっと見られそうだなと思い再生。

Filmarksで見てみると2021年の作品とあり、いよいよ何故今更宣伝動画が私に届いたのか不思議だが、これはYouTubeのアルゴリズムから導き出された、ある種ミックステープの様な、何かしらのメッセージなのかなと受け取って振り返ってみる。


【あらすじ】
まだ中学生くらいの女の子ビバリー・ムーディーは、幼い頃に両親を亡くし、祖母に引き取られ2人暮らしをしている。

そんなある日、両親の遺品の中からとあるミックステープを見つけるが、テープの劣化により壊れてしまい再生が出来ない。

レコード屋の店主、クラスメイトらと協力しながら、壊れたミックステープのケースにかかれた曲目を、曲順通りに聴く事が大切で、微妙な間やテンポの変化、フェイドアウトやフエイドインなども、ミックステープの作り主、つまりこの場合ではムーディーの親からのメッセージを受け取ろうと奔走する、青春友情家族愛ロックミュージック町内ロードムービー。


【感想など】
・タイトル
ミックステープとは、自らが編集したオムニバスのベスト編集テープ。
私は、インターネット音楽よりも、カセットテープやMDの世代なので、自作したテープなどを自宅や車などでかけたりなんかもした。
その時は、ミックステープと言う呼び名では無く、単に「テープ」や「オリジナルテープ」などと呼んでいたと記憶している。
それを、聴いた友人らから、「俺も好き」や「こんな曲あったの?」などと音楽談義をするのが楽しかった。
同様に、他の誰かが作成したオリジナルテープを聴く機会も多く、そこで初めて聴く友人のセレクトした音楽に、胸を躍らせたりもした。
自身の感度だけでは辿り着けない音楽に出会える喜びや、今作同様に曲順によるメッセージなども感じられ、とても良い思い出だったと言える。
インターネット音楽でも、誰かが作成した「プレイリスト」などで、同様の体験が出来るのだろうから、似た様な経験は現代的な音楽の聴き方をされる方でも共感出来るのかも知れない。


・クレジット表記
ポスターデザインでも見受けられるが、1970年代後半のロンドンのパンクロックバンド「セックス・ピストルズ」のジャケットデザインの様な、ビビットなツートーンカラーによる貼り絵の様な文字がとてもかっこいい。


・楽曲
舞台は2000年問題を目前に抱えた1999年、ローティーンの主人公ムーディーの、今は亡き親が我が子誕生の頃に作成したミックステープなので、80年代以前の楽曲を中心にオリジナル曲も含むと言う内容。
彼女にとっては知らない曲ばかりで、手がかりを掴む為に訪れた街のレコードショップ店員のアンタイが「センスが良い」と言う様に、ナイスが曲が並んでいる。
鑑賞のきっかけとなったブルーハーツのリンダリンダはもちろん、彼女達が中々探せなかったキンクスのベターシングスも大好きな曲だし、それ以外にかかる曲も、ロックでポップでちょっとアンニュイな感じで、全体を通して統一感を感じる。

楽曲探しの途中で傷付き、これ以上続ける事を諦めかけた彼女に、きっと明日は良い日になると言った内容のメッセージが込められたキンクスのベターシングスは、笑いと涙の同居する、とても素晴らしいシーン。

親のオリジナル曲は、物語の最大のメッセージでもあり、とても感動的。


・カウントダウンパーティー
2000年問題を憂慮するより、目の前にいる大切な人との時間を有意義に過ごそうと言う心境の変化が感動的。
演奏する曲も、祖母のお気に入りの曲なのも、アレンジが10代の解釈によるポップなロックになっているのもポイント高い。




【飲み物】
レコード店の店主が飲んでいる、ノンアルコール飲料。

彼にはアルコール中毒により、何かしらの良くない過去がある。
禁酒の会へも参加していたり、真面目に禁酒を続けている。

そんな彼が、ほとんど片時も離さず手にしているのが、銘柄不明のノンアルコール飲料の缶。

よく分からないながら、「TaB」の3文字を検索にかけてみたところ、タブと言うコカコーラからかつて発売されていたノンカロリーのコーラ風味飲料だと書いてあった。
ダイエットコーラや、ゼロコーラの様なものなのだろうか。
日本でも何度か発売されているが、いずれも既に終売となっているとある。
アメリカ本土では1962年から2020年まで販売されていたらしい。


【総括】
1時間40分くらいと、短めの時間でサクッと観られる。
キャラクターも、ルックスを含めてとても個性的で、観易さと言う点からもとても良い。
目的が明確なので、気軽に観られる類の映画。
音楽が、80年代以前、その周辺の名曲揃いでとても良い。


何かに導かれるかの様なタイミングでの鑑賞で、メッセージを受け取る様に鑑賞出来たのは、とても良い体験となった。
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