daisukeooka

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

4.8
ミシェル・ヨーがオバちゃんになってしまってカンフー激闘異空間ビュンビュン。そのトレーラーを見てから映画館に行くまで、SNSを通じてやってくる情報は全てシャットアウトした。個人的には最も推す女優の一人、アジアン・ビューティの象徴だ。

誰にでもある「あの時こうしていれば」という思考。「人生に『たら・れば』は無い」というのが今まで生きてきた中での信条なんだけど、無数の選択を経た無数の「別の自分」が無数の「別の世界」にいるってのを、ここまでの密度で「自分ごと」に持ってきたのはかつて無い。

そう「自分ごと」感。数あるマルチバースの中でも、まるで「花様年華」の世界で交わされる会話にグッと来た。恋と人生が重なる中に、無常の切なさがあって、だからこそ目の前の相手は何より貴重なのだ。エヴリンに別れを告げ去って行くウェイモンド、ここに「男」がいる。

マルチバース世界の「理」と、自分の人生や家族のあり方をマトモにしたいという「情」が絡まり合って爆進する。自分だけでもあれだけたくさんの世界を背負っていて、そんな人がこの地球だけで何十億人いるんだから、世界は数え切れなくてカオスで「そこにあることだけで」クレイジーだ。

優れた映画はどこかに「いたたまれなさ」「居心地の悪さ」「ちょっと恥ずかしくて観てられない感じ」を備えていたりする。この映画ってそれがまあまあたくさんあって、指が変になった世界とかはちょっと「え〜〜〜」ってなってた。人間誰でもふと「ものすごく変なこと」を思いついたりするけど、それで異空間のパワーを手に入れられることにしちゃったり、そんなふうに思いついた世界をそのまま描くことが、見る側の想像と現実さえも揺さぶってくる。「これをここに差し込んだらどうなるんだろう?」しないから。ろくでもないことにしかならないから。

そんな世界の中心にいて戦うゴッドマザーを演じ切ったミシェル・ヨーに大拍手。そして彼女を支えたキー・ホイ・クァンに大感謝。アジア発で長年かけてオスカーを獲得した二人は、映画を志す全てのアジア人にとってのアイコンになった。映画は愛と娯楽。ポリコレに塗れた窮屈な映画世界に、アジアからその原則が再び叩き込まれた。

あのクリクリギョロ目のシールがかわいい。おれならあの黒目を真ん中に持ってくるんだけどな。それをやらないのはダニエルズの狙いだったんだろうか。
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