daisukeooka

ゴジラ-1.0のdaisukeookaのネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

後からいろいろ考えるとツッコミどころが無いわけではないんだけれど、概ねしっかり楽しめた。何より「戦後のボロボロの日本にゴジラが襲ってくる」という立て付けが効いている。今回も事前の情報をほぼ入れずに観に行った。

人々がゴジラとどう戦うかと、浩一(神木隆之介)が自身の恐怖をどう乗り越えるかが丁寧に歩調を合わせられていて、特撮ドラマが言われがちな「人間を描けていない」という安易な批評なんぞ堂々と退けられる。徹底的に浩一を、当時の世情も絡めながら自身の弱さに直面させ続けている。浩一が典子(浜辺美波)との日々を「すでに屍になった自分が見ている夢では」とさえ思うほど、狂う一歩手前まで行かせた演技とホンは、本当に主人公をしっかりと絶望に叩き落としていて見事なのだ。優れた物語は、主人公をいじめ抜くという。それが愚直なまでにできている。

また、戦後当時に横溢していた空気を「死ねなかった」「生きて帰って恥さらし」という悔恨と「生きていたい」「家族と生きたい」という素直な願いを交錯させてシンプルに表現していたのも良かった。何かの災厄に立ち向かうとき、自らを投げ出して誰かを守ろうという衝動は、その場を逃げ延びたいという衝動と同じくらいにあるもので、それがこの物語の通奏低音になっている。決して単なる怪獣エンタメで終わっていないのだ。

そういえば山崎貴監督は「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」などで「昭和」しかも「戦前~戦後」をしっかり描き抜いてきた。これまでに何本も作って、今作のためにもその時代を見直して、物理的にリアルに描くのみならず、その時代の心情を「翻訳」して現代の観客に伝えることに心を砕いたんじゃないかと想像する。

野田(吉岡秀隆)が作戦前の打合せで面々を諭す言葉も効いている。これってつまり「科学的知見を備えていて、現場の経験も豊富な、比較的若い人物が、旧世代の常識やイデオロギーを超えて、生存を第一優先にした指針を謳う」図であって、まさに「今の日本が必要とする」リーダーのあり方・かつ人々の生き方だと思った。過去を舞台に現在の課題を照らしているのだ。

贅沢を言えば、戦場なのかどこなのか分からないが、いがみ合って憎しみ合う人間同士をもっと濃く描いてくれても良かったかもしれない。憎んだり蔑んだり襲ったり拒んだり逃げたりしている人間同士を、ゴジラが一瞬のうちに踏み潰してグチャグチャの一緒くたの肉塊にしてしまうような場面がほしかった。人間の思いなんてはるかに超越した絶対的な恐怖ってのを見せてほしかった。せっかく揃った食べ物や薬や綺麗な水がゴジラのせいで全て壊されて、多くの人々や子どもたちがまた生死の境に追い込まれるような凄惨な描写があっても良かった。細かいところだけど「ダメージ」とか「メッセージ」とか、戦後スグの人間たちが使っていたのかどうか分からない外来語が散見された。「ダメージ」は「損害」「痛手」「深手」で良いし「メッセージ」は「手紙」「言葉」で良かったはずだ。もう一歩、詰めてほしいところもちょいちょいあったのだ。

とはいえ、造形的な怖さは近年のあらゆるゴジラの中でも一番じゃないだろうか。話が通じなさそうなのは「シン・ゴジラ」の方が上だし、ケンカが強そうなのはハリウッドのモンスター・バースのゴジラだけど、今回のゴジラは「荒ぶる神」でもあった。単なる災害でもなく、人間の深奥にある恐怖心とか生存本能とかを鷲づかみにして握りしめ揺さぶってくるような怖さがちゃんとあった。それはもちろんゴジラだけでなくて、そこまでに積み上げたキャスト渾身の芝居や物語のスリルがあるので活きてくる。

「荒ぶる神」といえば、音楽が良かった。伊福部昭のあの音楽もさることながら、佐藤直紀さんのスコアが良かった。演技と音楽が合わさって、観る側に素直にゴジラへの「畏怖」が生まれていると思う。

あと、惜しいのはタイトルか…「-1.0」と書いて「マイナスワン」と読ませる。これちょっと苦しくないか? 敗戦でゼロになった日本をマイナスに叩き落とす、という意味はもちろん分かるんだけど。戦時中のルックだから、逆にイマっぽくて良かったのかな?「マイナスワン」という言葉を劇中に何か込められていれば…とも思った。というか、本編が終わってタイトルが出てきたところで「あ、マイナスワンだったな」と思い出したくらいだ。それほど、本編はしっかり観る側を引き込む仕上がりだったと思うのだ。

代案は「ゴジラ ー 絶望 ー 」かな。タイトル会議で絶対出てる案だと思うけど。
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