・1980年代初頭。イギリスの海辺の街に建つ映画館「エンパイア劇場」。そこで統括マネージャーとして働くヒラリーは過去に痛みを抱え、支配人からセクハラを受けながらも静かに日々の仕事を全うしていた。ある日、スティーブンという黒人青年が劇場の仲間として新たに加わることになる。ヒラリーとスティーブンは互いに惹かれ合い、やがて逢瀬を重ねるようになるが、徐々に彼女の傷は開き始め、街では有色人種に対する差別が激しくなっていく……というおはなし。
・性加害や人種差別、精神疾患とかなり重い題材を扱っていながらも、穏やかでほの明るい、人の傷を癒やしてくれるような映画になっていて良かった……。アールデコ調のエンパイア劇場や、ワインレッドと深緑のシアタールームの美しさが作品全体を彩っている。夜の街のしっとりとした暖かい映し方も素敵だった。派手さはないけど、ホッと一息つける豊かさと気品がある映画だ。映画館が舞台になっている時点でもうかなり良い。
・主演のオリビア・コールマンの演技もすごかった。どこにでもいそうな中年女性の装いから精神的に混乱して荒れた状態まで、本当に「そういう人がいる」としか思えない演技。なんとなく、立っているだけで作品世界の足元が確かになる気がする。演技のことなんて何も知らないから偉そうなことは言えないけど、そういう気迫を感じずにはいられない。
