T太郎

ハッチング―孵化―のT太郎のレビュー・感想・評価

ハッチング―孵化―(2022年製作の映画)
3.9
951
フィンランド発のホラーだ。
非常に面白かった。
なんとも言えない不条理感と精神的な気持ち悪さが実にいい。

主人公はティンヤという少女だ。
母親がSNSをやっている。
幸せな家族の様子を動画で上げているのだ。
これが不自然に明るく多幸感に満ちた動画で、逆に気持ち悪いのである。

父、母、娘、息子の4人家族だ。
とても幸せそうな家族である。

だが、どこかおかしい。
それぞれが少しづつおかしい。

母親は動画で幸せアピールをしているが、不倫をしているのだ。
娘のティンヤに異常な期待を寄せてもいる。
お顔がどことなく「危険な情事」のグレン・クローズに似ていて恐ろしい。

娘のティンヤはそんな母親の言いなりだ。
無理矢理な笑顔で母親と接している。

父親もおかしい。
妻の浮気を知っていながら黙認しているのだ。
何事も見て見ぬふりなのである。
必死で幸せ家族を演じている。

ティンヤの弟は普通か。
だが、犬の首なし死体を掘り起こして抱えてくるなんて、普通の児童にはできない所業だ。

以上のメンバーでお送りするファミリーホラーである。
(ファミリーホラーて何?)

ティンヤが謎の卵を拾った事から物語は始まる。
彼女はこの卵を秘かに温め育てるのだが、尋常ではないサイズにまで育ち上がって行くのである。

ダチョウの卵よりはるかに大きいのだ。
大丈夫か、ティンヤ。
なぜ、温めた。
不気味以外の何ものでもないではないか。
無精卵なら無駄骨だったぞ。

果たして、どのような生物が産まれてくるのか。

やがて、卵が孵化する。
殻がピシッと割れて・・
そこから産まれ出てきた物は・・・

鳥だ。
鋭いくちばしを持つ恐ろしげな怪鳥である。
既にティンヤと同じくらいのサイズだ。
ティンヤはこのひな鳥をアッリと名付け、秘かにお世話をする事に。

そう、アッリはまだひな鳥なのだ。
これが成長してどのような姿になるのか。
必見である。

非常に満足度の高いホラー映画だった。
凡百のこけ脅しホラーにはない、独特の雰囲気がある。
ただ恐いだけではない何かがあるのだ。

モンスターであるアッリより、ティンヤの家族の方が不気味だったりする。
この辺の微妙な演出が上手くて気持ち悪い。

更に素晴らしいのが、不条理感だ。
合理的な説明や辻つま合わせなど全く必要としない、ほったらかし感とでも言おうか。

生真面目にツッコむ事が野暮だと思える作品だ。

気になった方は是非ともご鑑賞あれ。
T太郎

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