Arata

名もなき一篇・東京モラトリアムのArataのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

《MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)》シーズン4より。


「新聞記者」で、日本アカデミー賞を受賞している藤井道人監督の作品。

他にも、余命10年、ヤクザと家族The Family、宇宙でいちばんあかるい屋根、など、個人的には全て未聴だが気になっている作品ばかり。
興行的にも順調で好評価の作品が多い事もだが、まだお若いのに作品数が多い事も驚きだ。


【あらすじ】
東京に住む若者が1人。
決して安くなさそうな家賃と思われるマンションに、おそらく彼女と同棲中。

2、3言、会話をするが、何処か上の空。

一見恵まれた環境の彼だが、何となく無気力。

彼は、旧知の友人と酒を飲み交わし、そこで昔話になり彼の心の内が明らかになる。


彼に訪れる「変化」(MIRRORLIAR FILMSの全作品に共通のテーマとされているもの)とは一体?
と言った内容。


【感想など】

モノクロとカラーの対比がとても良かった。

セリフ以外の映像からも読み取れる心理描写が、説明くさくなる一歩手前くらいの絶妙なあたりで、非常に分かりやすく表現していると感じた。

それらを踏まえての、主演の方の無気力な表情も良かった。

特に、過去の回想描写のカラーから、再びモノクロに戻った時の顔が、完全に過去にとらわれ「取り残された人」と言った感じが滲み出ている様に思えた。


前田旺志郎さんは、一瞬でもキラリと光る演技で作品をしっかりシメテくれていると感じた。さすが。


「タバコは、男がため息を隠すため」と言うセリフがあったのだが、個人的には「タバコは大人のため息」と言う文言を何処かで見聞きした記憶があり、そちらの方に馴染みがあるので少し違和感があった。
一見同じ内容だが、タバコの煙を吐く息で「隠す」のと、タバコの煙を吐き、息「そのもの」を表しているのとでは、ニュアンスが少し違う。
ケムに巻くのではなく、煙の美しさやそこに秘められた悲哀の様なものが感じられるので、そう言った意味でもやはり「大人のため息」の方が好きだ。

ところで、この私の知る方の文言の出典が不明で、一体どこで知ったのだろうと悶々としている。


最後のパソコンのキーボード音、やる気に満ちている事を表現しているかの如くの音量ではあるが、寝起きに隣であの音があの音量で聞こえてきたら、あの彼女さんの様に笑っていられないかも知れない。笑


過去に向き合い、失われた時間を取り戻していく。
彼が未来を向くのは、もう少し先なのだろう。
色を無くした世界が、再び色づいてくる。
それが、彼にとっての「変化」なのだろう。



【お酒】
サッポロ黒ラベルのジョッキ。

渋谷のオープンテラスの様なロケーションで、学生時代の映画仲間の友人達と飲んでいるシーン。
黒ラベルと言えば、「丸くなるな、星になれ」と言うキャッチコピーが有名。
※1970年代には「男は黙ってサッポロビール」と言うのもあったが、ここ最近では「星になれ」の方がポピュラーかと思うので、そちらの方をメッセージとして受け取った。

この作品の登場人物たちは、そろそろみんな丸くなり始める頃。
話す話題も、「丸くなった」と言う印象を受ける。

そんな中で、丸くなりたく無いと抗う気持ちや、丸くならざるを得ないのだろうかと言う夢を諦めるかの様な気持ち、それらの葛藤が彼を無気力にしているのだろう。

その後の路上飲みのシーンでの、「お前は才能あるから、映画辞めるな」と言った内容のセリフは、まさに「丸くなるな、星になれ」である。


彼がいつか星になれる日が来る事を、そっと応援したい。
Arata

Arata