Arata

ブートレッガー 密売人のArataのネタバレレビュー・内容・結末

ブートレッガー 密売人(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

タイトルに釣られて鑑賞も、やや肩透かし。


【あらすじ】
カナダのケベック州、アルゴンキン族と言う地元の先住民族の居留地で、本来禁止されているはずのアルコールによる問題が頻発している。

密輸・密売している犯人は明らかなのだが、一定数のアルコールを欲する人たちが黙認する事で、公然の秘密として違法行為が行われている。

地元を離れ、都市部の大学に通う主人公のマニは、長期休暇中に地元に滞在し、その問題に直面し、社会的、歴史的などから見ても、「禁酒法」が悪手であると感じており、選挙による法改正を企てるのだが、、、


と言ったあらすじの物語。


【感想など】
・タイトル
ブートレッガーbootleggerは、その名の通り、ブーツの脚に隠してお酒などを密輸すると言う意味が語源の言葉。
密売人は、あくまで運搬業。
密造者が運搬も兼ねる場合もあるが、今回は運搬と販売を行う者の意で使用されていた。
飲まれているお酒は密造酒では無いので、健康被害と言う描写はほぼない。



・居留地
カナダの先住民族アルゴンキン族の居留地では、お酒が禁止されているらしい。
今作では、お酒を一つのきっかけとして、この土地に根付く深い闇の部分を暴こうとしている。
お酒の描写はあまり印象的では無く、それよりもドラマパートの部分で主人公が苦戦する、閉塞感のある村社会の悪しき習慣の様な存在が描かれている。

雄大な自然が、ところどころにインサートされている。



【お酒】
密売されているお酒の数々。
ウォッカ、ウイスキー、ビール、などと思われるお酒が出ては来るが、どれも「単に禁止されているもののうちの一つ」でしか無く、あまり効果的では無い様に思えた。


不良の溜まり場で飲まれたり、怪しい集まりで飲まれたり、賄賂として登場したり、最後には禁止されているはずのお酒絡みで、最悪の結果が待っている。
これに関しても、良い側面の描写が少なく感じられ残念。
ただ否定する映像ならばそれで良いが、仮にも主人公は禁酒法を廃止する選挙を企てているのだから、禁止しない利点や飲酒により得られるメリットなど、もう少し登場させて欲しかった。
これだと、お酒がただの悪者でしかないし、それを持ち込む白人が悪いと言っている様に感じた。

お酒によって救われる人々、密売人の売り上げが居留地にとって欠かせない財源となっていると言う事を現す、もっと分かりやすい描写、そう言ったプラスの視点などは印象に残らなかった。

挙げ句、密売人は街に不要な存在として忌み嫌う人も多い。
秩序を乱すのは、禁じられているはずのお酒を売るからでは無く、そもそも密売人がアルゴンキン族では無く白人であると言う事も、おおいに関係していると思えた。


また、お酒による事故で、若者が命を落とす事は、「未熟な存在は、より成熟した存在によって守らなければならないはずで、その様な組織が機能していない」と言う直接的な喩えの様だった。

お酒はこの居留地における問題の氷山の一角でしか無く、閉鎖的で保守的で腐敗した政治そのものが良くないのだと言っていると感じた。



蛇足だが、アルゴンキンと言う名前のカクテルがある事を記載しておく。

・ウイスキー 1/2
・ドライベルモット 1/4
・パイナップルジュース 1/4
から作られるカクテル。
比率は一般的なレシピ。


パイナップルの甘みにベルモットの風味が加えられ、爽やかで飲みやすい飲み口になるが、後からしっかりとウイスキーが香る、そんなカクテル。


お酒は酔っ払うだけのものでは無いし、禁止されていると言う理由から、イキがって飲んで悪さをする道具でも無い。

アルゴンキン族が美味しいアルゴンキンカクテルを飲んで、それに気付き、豊かな暮らしになる事を願う。



【総括】
保守と革新、お互いの歩み寄りが大切。

この土地の方々へ向け、問題提起を想起させる事が目的として発表されたのだとしたら、かなり意味のある作品だとは思うが、そこから遠く離れたところで暮らす私にとっては、客観的な視点でしか観る事が出来ず、うまく作品に入り込めなかった。


思い切ったアップデートか、徹底的な原点回帰か、彼らにとって良いのは果たしてどちらなのだろう。
Arata

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