むさじー

Dear Pyongyang ディア・ピョンヤンのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

<北朝鮮を巡るシナリオ無き父娘のドラマ>

人生のすべてを祖国・北朝鮮に捧げてきた両親と、日本で生まれ育った在日3世の娘。
カメラの後ろにいる娘(監督)が語りかけ、主人公である父親が普段の姿で答える。
日常の私的なビデオ撮影のようで、演出はあまり感じられない。
父の思想信条と当時の状況から臨んだ北朝鮮帰国事業だったが、その選択から後に家族離散という苦しみを背負い込んでしまう。
父は内心では後悔しながら、朝鮮総聯元幹部という立場上、それを言葉にはできず、せめて今まで縛ってきた娘を理解しようとする。
娘は父の秘めた葛藤、辛さが分かっているだけに、帰国事業の過去を糾弾したりせず、「(父の言動に)違和感を覚えた」とさりげなく否定し、気遣いを見せる。
この距離感には、心底から理解し合えないだろう親子の溝と、切っても切れない親子の情の両方があって、どこにでもある親子の姿と重なる。
最終的に父は、娘の仕事がやりにくいだろうと、娘が朝鮮籍から韓国籍に変えることを認め、娘の生き方を受け入れて二人のわだかまりが消えた。
この時、娘を想う感情が溢れてしまって言葉にならず、父はすねたように背を向けた。
その微笑ましさに思わず涙腺が緩む。
いわゆるドキュメンタリーとしては、踏み込みの甘さが目に付くが、家族の葛藤を描いたシナリオの無いドラマとして見ると、熱く迫るものがある。
なお、同時期に撮って、姪を主人公にした『愛しきソナ』(2009年)を併せて観ることをお勧めする。
むさじー

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