MamoruTakahashi

哀れなるものたちのMamoruTakahashiのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.7
シュールでグロテスクなSFでありながら、ラブコメ要素もあったり、人権、哲学、人間の成長、人は良くなれるのか?という問い、などなどを描いた様々な要素が、美しいヨーロッパの街並みと、これまた美しいエマストーンとその衣装に包まれて、これまで味わったことのない映像体験!

マッドサイエンティスト的な設定から、
こうもここまで人間讃歌を描けるものだろうか?

台詞回しや章立てなど非常に小説的でありながら、
映像でしか表現できないことも(過剰なまでに)描いていて、中世をベースにしながらも空にはロープウェイ?が張り巡らされていたりとファンタジックな世界観が、彩度バキバキな極彩色と共に飛び込んでくるのは、主人公が体験する新しい世界をそのまま写しているかのようで、テーマパークのようでこちらもワクワクする。

主軸である主人公の成長という部分は実験的でドラスティックなのだけれど、同時に本質的でもある。
序盤は逆コナン(身体は大人、中身は赤ちゃん)なので色々な意味でコメディ的な展開が多いけど、急速に色々なことを吸収して成長していく。
1番重要なのは、中世(たぶん)の時代において大人から「女性というのは」とか「社会というのは」という教育(ここには封建的で偏見的な意味が多いに含まれる)を受けないまま成長することで、そういう世の中の常識や既存の価値観のフィルターを通さずに世界を見ることができて、今で言えば誤った考え方に疑問を感じ、本質的な提案をすることができるという点。
ここで僕らは色々なことに気付かされる。
多様性や幸福、差別、慈悲と言った人間にとって大切な気付きを、登場人物との会話から、主人公と一緒に僕らも体験することができる。
中でも船の中の悲観主義者の黒人と悟りおばあちゃんとの哲学的対話はとても楽しかった(1人置いてかれるツレとの対比も面白い)。

一貫して倫理観という観点は完全に抜け落ちているし、エロとグロの両方で中々インパクトのあるシーンも多いけど、、ファインアートとしてもヒューマンドラマとしても衝撃的に面白い映画でした。