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アメリカン・フィクションのarchのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.5
かなりスロースタートの印象ながら、アメリカでの「黒人」が如何なるステレオタイプを押し付けられているのかを風刺し、現代において活発になり始めている有色人種の人権運動が、白人にとっての「ファッション」に成り下がってはいないかを痛烈に指摘する作品としてよくできていた。

主人公がいわゆるステレオタイプから外れている存在(どこか意識的に外れようとする存在)で、尚且つ好感の持ちづらく行動力控えめな振る舞いをするところが新鮮な人物造形という感じがする。
彼が自分の主体的な行動を起こさずとも、ラストに突き進んでいくその展開自体がどこか白人中心的な社会の中での話だということを突きつけてくる。
個人的な白眉は審査会議の場面。"黒人の権利を推進すべき"とのたまいながらも、審査員の黒人2人の意見は反映されず。作中にもセリフであった白人の罪悪感を解消するための"黒人"はいま、目の前にいる"黒人"とは全く別物であるということが端的に示唆されていて、政治的正しさ、というものが「誰のためにあるのか」を一考させる作りになっている。

ラストのメタ的な結末は『帰ってきたヒトラー』なんかを思い出させる展開だった。結局翻らない状況、それを飲み込む人たち。その誰のためかも分からない"政治的な正しさ"を単純に糾弾するだけでなく、そうはいっても仕方がないというビターな現実を受け入れる姿勢も見せていて、なんとも一筋縄ではいかない作品だった。
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