A8

異人たちのA8のレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.2
誰しもが過去を抱え生きている。
いまを生きている以上、もちろんこの瞬間も過去へと変わっていく。
苦しかった思い出もあれば楽しい思い出も、過ちもあれば栄光もある事だろう。
ただ単純な繰り返しのように思えるこの日常はそれら過去の結晶なのだ。
あの時の特別な瞬間すら上回る唯一無二の瞬間がこそ今なのだ。

過去を受け入れることは、軽く口にするほど簡単な事ではないだろう
ただ、やっぱり切っても切り離せないモノなのだ。
家族との血のつながりが絶てないように
愛という存在を誰しもが持っているように、、
生きるということの付随物なのだろう。


主人公は物書きだ。
そして孤独だ。
友達も居なければ、家族もいない。
孤独な人間の定義とはこのことを指すというほどに、、
その孤独の原子には、自分はゲイであり、両親も居なければ、どこか人生への諦めのようなものがあるようだった。
きっと自分の心を誰にも理解することができないと信じている。

それでも彼は人の温もりを求めていた

ある日、両親と出会う。
あの時のお父さん、お母さんのままだった。
彼の長年求めていた温もりを手にすることができたのだ。
それと同時期、誰も住んでいないと思っていた住処のアパート
そこでもう一人の住人と出会った。
彼はまるで、自分を投影しているように孤独な人だった
最初は警戒をし、一度目の彼からの誘いを断ってしまう。
だが、再び出会った主人公は必然のように
彼に惹かれていったのだ。
苦しみや悲しみ全てを包んでくれるような温もりを与えてくれる彼に。

死んだはずの両親。
急に現れた孤独な男。

この不思議な世界は、
現実のものとして受け入れることに戸惑いを感じなかった。

なんだろうなぁ
少し触ったら砕け散るガラスみたいに繊細で
美しい雰囲気がこの作品にあった。
それは人間の心の繊細さを比喩しているかのようでもあった。

抱きしめることができるチャンスをもう一度欲しい。

そのような歌詞の歌が作中流れてくるのだが
これは両親の主人公への想いがまるで詰まっていた。
あのとき、愛を十分に与えることはできたのだろうか、、
いまなら自分の命すら惜しみなく抱きしめることができるのにと。

そして、主人公は両親の気持ちをしかと受け取っていた。
少し遅くなったけど、時間は関係ない
ずっと求めていた両親からの愛を感じることができたのだ。

そして、、
彼の愛はついに姿を現した。
孤独な男への揺るぎない愛

彼の元へ向かう主人公、、
彼が住む部屋に入り、寝室を開けると変わり果てた住人の姿があった。

初めて出会ったあの日の姿をした彼が、
変わり果てていた。

そこで主人公は、両親が自分に対して抱いていたあの気持ちを、彼に対して自分も抱いたのである。

孤独な男は、現れてこう言った
震えるくらい孤独が怖かったんだと
そしてこんな姿になった自分を見せたくなかった。

主人公は、
君はここにいる、ここに存在しているんだ。
震え、不安そうな彼に優しく言う。

悪魔から魂が狙われようと、吸血鬼から襲われようとも
俺が守ってあげる。
そう言いながら
尚、震えている孤独な男を
あの時、与えてくれた彼の温もりのように
抱きしめた。
そこには揺るぎない愛の姿があった。


人生は単純だろうか、、
それは捉え方によるだろう。

過去を受け入れる
その純粋な心で
今を愛する
その純粋な心で
未来はそうして描かれていくのだろう。
自分が持っているその愛を貫く。


死んでいるはずの両親と
死んでいることに気づいた孤独な男
どちらも時間は遅かったかもしれない。

だけど、その過去を受け入れ
愛をもっていま、接した主人公。

彼は再び悲しみに苛まれることになるだろうが、もう孤独を感じることはきっとないだろう。複雑なその理由は説明できないけどそう思ったのだ。


死んでいるはずの人間が現実のように登場する不思議な世界感など、、
一旦、そのことを理解するには少々時間がかかったが
→原作読んでないので、、

そのあとは、小説だから表せるような繊細で複雑な世界観を上手く映像でここまで表現したな、、と好きになった。

この繊細で陰鬱な雰囲気が似合うポールメスカルは印象的。

ややこしさや戸惑いがありそうな作品の説明を省き、
ずばんとダイレクトに描かれる構成に振り切ったのは、テンポの途切れや萎えさせることはなく唯一無二の世界感を創り出すのにいい影響を与えたかもしれない。
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