鈴木ピク

ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版の鈴木ピクのレビュー・感想・評価

4.3
初映画館タル・ヴェーラ。
統制の効いた長回しの妙で映画の格を保ちながら、人類が何百年も当たり前に「西洋音階」に音楽観を支配されてきた様な抑圧を、巨大なクジラを引き連れたサーカスが牽引する暴動の、その抵抗すらも統制に封じ込める事で無惨に描く。
タル・ヴェーラのそれはタルコフスキーのような難解さと違う、むしろキューブリック寄りのアトラクション長回しなので、カメラの手前に主人公の後頭部があり一緒に次なる展開を発見していく、そういう分かりやすさで満ちていて、実はとっつき易い監督という印象はより補強された。
酒場スタートや、完全に終わってる場末のハンガリー、閉鎖コミュニティに曰く付きの異物がやってきて、、、という流れなんかもこの前作に当たるだろう6時間の大作『サタンタンゴ』のセルフパロディのようなんだけど、そんな悠長なことやってられねえとばかり終盤大スペクタクルが連鎖するので吃驚した。
「俺の長回しは凄い」ことを前作で存分に見せつけた後で、「だがこのすごい撮影というファシズムが我々を抑えつけるのだ」という矛盾を突き付ける 前作のよく動いた動物と打って変わって(巨大クジラは死骸で動かない)、ある「機械」が行くてを阻むのもシニカル 暴力は撮影という枠に敵わないのか。
長回しが心地よければよいほどショットの強度は脆くなるという諸刃の刃に、自覚的な人なのかというのが最大の収穫でした 恐らく一番見やすいタル・ヴェーラ

え、黒沢清って意外と彼の影響受けてます?って、『カリスマ』を想起してみたり。
鈴木ピク

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