T太郎

アーティストのT太郎のレビュー・感想・評価

アーティスト(2011年製作の映画)
4.0
896
フランス映画だ。
サイレントからトーキーへと移行しつつあった頃のハリウッドを舞台にしている。

サイレント映画など、今のお若い方たちには全くピンとこないかもしれない。
サイレント・・無声映画だ。

つまり、作品自体に一切音声がないのである。
俳優は表情と動きだけで演技をしていたのだ。

今、それを気軽に鑑賞できるとすれば、チャップリン映画ぐらいだろうか。
当時、チャップリンとともに3大喜劇王と言われたバスター・キートンやハロルド・ロイドの作品などは今や影も形もない。

この作品は当時のハリウッド界隈の悲喜交々をなんと、サイレント映画として撮っている。
そして白黒だ。

野心的な試みであると見るか、脚本家の手抜きと見るか・・・

嘘です。
変な邪推は止めましょう。
ちゃんと面白かったし、少し泣けたし。
いい映画だったし。

サイレント映画の大スター、ジョージが主人公である。
彼は気さくでユーモアもある非常に魅力的な男だ。

そんなジョージがペピー・ミラーという女優の卵と出会う。
天真爛漫で実に魅力的な女性だが、この時はただのエキストラに過ぎない。

そんな二人の淡い恋愛模様を描いた作品である。

時代はサイレントからトーキーへと変わっていく。
その波に乗れなかったジョージは次第に落ちぶれ没落していくのだ。

逆にペピーはトーキー映画でぐんぐん頭角を現し、大スターへの階段を駆け上がっていく。

だが、周囲にちやほやされ、若くハンサムな男が寄り添っていながらも、彼女の心の中には常にジョージがいる。
実に一途なのだ。

彼女の心根に私が大いに涙した事は秘密の内緒である。
(少しちゃいますやん)

ジェームズ・クロムウェル演じる老運転手やワンちゃんにも大いに泣かされた事は内緒の秘密だ。
(少しちゃいますやん)

ジョージの妻役のペネロープ・アン・ミラーとの久方ぶりの邂逅も嬉しかった。
8、90年代に活躍していた私の花嫁候補の筆頭にいた女優さんである。

過去、現在、私の花嫁候補はあまた存在しているが、未だ私の妻の座を射止めた女性はいない。
これは一体どうした事なのか。
世の女性たちの奮起を期待する。

白黒映画の効果的な演出で、一部をカラーにするというものがある。
「シンドラーのリスト」や黒澤明の「天国と地獄」が有名だ。

この作品は無声映画に一部音声を入れるという仕掛けを施している。
だけでなく、サイレントスターのジョージだけが声を発っせられないというおまけ付きだ。
実に上手い演出だと感じ入った次第である。

実際、トーキーに対応できず表舞台から退場していったサイレントスターは多々いたらしい。
映画史の一ページを知る事ができる興味深い作品でもある。

無声映画だが、分かりやすくていい作品だ。
敬遠する事なく是非とも観ていただきたい。
T太郎

T太郎