ねこねここねこ

麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜のねこねここねこのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

大好きなドラマ「新参者」の映画化ということで劇場で観て以降これで4回目くらいの鑑賞。
ドラマを見てなくても全然楽しめるけど、見ている方がバックボーンわかりやすいかな。黒木メイサの立ち位置とか。向井理とか。
ドラマ版は軽いタッチの話も多かったし、好きだった。

なぜか今回唐突に出てきた加賀恭一郎(阿部寛)の父(山崎努)を看取った看護師金森(田中麗奈)。(ドラマにもちょこっとは出てたけど)
原作を読んでないけど登場するんだろうか?加賀父子の葛藤を青柳父子の関係に絡ませたかったのだろうけど、ちょっと謎。
田中麗奈の透明感は好きだけど。
まぁ、父子のことは「祈りの幕が下りる時」でさらに掘り下げられてるので、セットで観るといいのかな。

日本橋の翼のある麒麟の像の前で、刺されて力尽きた男性青柳(中井貴一)。病院に搬送されるが死亡。
息子悠人(松坂桃李)が3年前にかかわった後輩吉永(菅田将暉)の事故との関係や犯人と間違われた八島(三浦貴大)、そしてその恋人(新垣結衣)。
その他加賀の従兄弟である松宮刑事に溝端淳平、悠人の友人で青柳殺しの犯人である杉田に山崎賢人など。

今だとそれぞれが主役級の豪華な俳優達が出演。特に菅田将暉などは初々しいし、やっぱりこの人は天才的だなと思う。障害を背負い植物状態で車椅子に座っているだけなのに、そしてキリンノツバサというブログに写真として出てくるだけなのに、すごい存在感。

松坂桃李も後輩を練習と言う名目で苛め、取り返しのつかない障害を負わせてしまった過去を背負い、父親に反発する役を見事に演じていた。

「中学を卒業して、酷いと思うけど吉永のことは忘れかけていた」というクダリ。まさにそんなものだろうなと思う。
顧問の糸川(劇団ひとり)が苛めた子供達の将来を考え、良かれと思って事実を隠蔽してしまったことで、子供達はしばらくは事実の発覚に怯えつつも、何一つ償うこともせず、社会的制裁を受けることもなく過ごしてしまう。

そしてある日、吉永の看病日記のようなブログを見て、七福神巡りを始める悠人。こんなことをしても許される訳じゃなくても、何もしないよりいいかと思う。でもその行為さえ、父親にたまたまパソコンを見られたことで怖くなってやめてしまう。
事実ときちんと向き合うことをここでも簡単に回避する癖がついたのだろう。

思春期の子供達がいけないことをした時、それにきちんと向き合わせることを避け、逃してしまった教師だけが悪いわけではないと思うし、糸川も良かれと思ってしたことなのだろうが、結果、逃げ癖がついたことも事実。そのことを加賀に強く責められても、初め糸川にはわからない。なぜならそれが子供達の将来を傷つけない1番簡単な方法だから。しかし自分の取った安易な方法が、結果として教え子である杉野を殺人犯に、悠人を被害者遺族にしてしまったのだという事実を強く突きつけられ、言葉もない。

結果として杉野は簡単に逃げた。そして無関係である八島が容疑者とされ、昏睡状態だと知ると超ラッキー!という思考になってしまう。だから親友の父親を殺してしまったのに、同情している味方のように振る舞ってしまえるのだろう。また逃げられないとわかると死を選ぶという安直で極端な方法しか浮かばない。向き合うとか償うという選択肢が抜けてしまった結果である。

どこかで誰かがきちんと向き合おうとしていたら、この哀しい事件は防げたのではないのか?
加賀が悠人を諭すシーンは、加賀自身も父親ともっと向き合っておけば良かったという後悔もあるのかな。

そして人間の持つ残酷さ、掌返しも描かれている。青柳は関係していないのに労災隠しを指示したとしてマスコミから叩かれ、そのことで子供達はクラスメイトからも心ない言葉を投げられる。
死人に口無しとばかり、青柳に罪を被せる工場長。青柳には世話になったハズなのに保身のためには平気で恩を仇で返すんだね。そして労災隠しを指示するような人間は死んで当然の人間のように扱うマスコミや周囲。
映画の中だと酷いと憤慨する人も、絶対に掌返しをしないとは言い切れない。

息子の代わりに吉沢親子のために千羽鶴を奉納する青柳。
黄色から始めた理由もここでわかる。
車の中で最後の白い和紙で鶴を折りながら嬉しそうな表情が哀しさを煽る。そんな時に過去に息子が犯した可能性が高い罪を知ってしまう。息子と向き合って話そうとするが、悠人は拒否。仕方なく杉野を呼び出して尋ねる。息子を本当に愛しているんだなとヒシヒシ感じる。
杉野に刺されても、誰にも助けを求めず麒麟の像まで必死で歩く姿も泣ける。
きっと青柳は杉野も苛めに加担していたとわかったのだろう。

ただ1点、なんで八島が刺された杉野を助けず鞄を盗んだのかはしっくりこない。普通に、多少恨んでいても刺されて大変な青柳の状況を見たら「どうしたんですか!大丈夫ですか?しっかり!」と救急車を呼ぶんじゃなかろうか?ナイフが刺さって苦しんでいるのに知らんぷりして財布の入った鞄持って逃げるだろうか?八島ってそういう人間なの??という違和感。

そしてまぁこれは実際もそうかもしれないんだろうけど、とにかく早期解決をしたい県警本部は犯人八島説で凝り固めようとする。そのために上層部はマスコミに労災隠しをリークしたり、どんどんストーリーを作り上げて行く。なんか怖いね。
刑事課長やらその太鼓持ちみたいな刑事に真っ向から対立せずに加賀をサポートする、松重豊演じる小林主任の存在も何気にすごく良い。加賀にいいように使われているようで、頑張り屋の松宮刑事もいい味を出してて◎

最後に「人生甘く見られるなら大丈夫。どこにも救いがないと絶望するよりいい」という台詞もジーンと来る。

何度見ても泣けてしまう好きな作品です。

ドラマでは山下達郎の「街物語」主題歌で好きだったなぁ。