ねこねここねこ

ミッドナイトスワンのねこねここねこのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

引き込まれると同時に観るのが辛くなるような映画🎬

女性になりたいトランスジェンダーの凪沙(草彅剛)。仕事は限られいわゆるオカマのお店で踊る。定期的な注射や手術のための費用もあり、経済的にも苦しいが同僚達も皆同じ状況で、仲は良い。
ある日母親(根岸季衣)から電話で、従妹の早織(水川あさみ)の中学生の娘一果(服部樹咲)を預かって欲しいと頼まれる。母親にはカミングアウトしておらず、凪沙を武田健二と思って訪ねて来た一果は凪沙の姿を見て戸惑う。早織から虐待を受けて来た一果は初め心を閉ざしていた。
バレエを習いたい一果を応援するため慣れない仕事で頑張る凪沙。
コンクールの時に早織がやって来て、それを見た凪沙は身体も女になって一果の母親になりたいと願うが。

トランスジェンダーの人達は自分の身体と心の性が一致せずに苦しむ。経済的にも苦しいことがほとんど。
昨年LGBT理解増進法が制定されたが、まだまだ問題は山積している。
実際公共のトイレをどうすべきか?銭湯はどちらに?など議論されているし、一部悪用して捕まる輩がいるのも事実。
就活ひとつでも物珍しい者を見るように見られたり、型通りのマニュアルに沿ってしか(映画の中だとなんでも共感しておけばいいと思っている人とか)対応できない人がいる。そして現段階では仕方ない部分もある。
私が知っているLGBTの人達は声高に権利を主張するよりも、他の人と同じように生きたいと強く願う人達だ。一部の急進派を除いて実際はほとんどの人が「普通に平凡に静かに暮らしたい」人達だと思う。

凪沙もそんな1人。でもこの普通に平凡に暮らすことが彼らにはとてつもなく難しい。心が折れそうになりながら生きている凪沙にとって、一果は心の拠り所でもあり、バレエをやらせたいという母親のような気持ち。
バレエ教室の先生(真飛聖)から自然に「お母様」と呼ばれて恥ずかしそうに嬉しそうに笑う凪沙を見ていると、凪沙は本当に一果の母親になりたいんだろうなと思う。

自分の腕を噛んでしまう自傷行為をする一果を必死で抱きしめる凪沙。
バレエの道を断たれながらも一果を応援し、自らは死を選んでしまう一果の親友りん(上野鈴華)
一果にバレエを続けさせるためにいかがわしい仕事をしようとする凪沙。それが無理で今度は男として力仕事を始めるが、男としての腕力がなくて苦労する。ヘルメットに⛑名前を書けと言われて、男としての実名を書くが、そんな当たり前のことがすごく辛い。
決心して身体も女性となる手術を受けて一果を迎えに行くが、一果の腕には自傷行為の痕が無数にある。凪沙自身もバケモノかのように突き飛ばされ、罵倒される。
どこにも救いがない。
リアルな重苦しさが強すぎて、観ていて辛くなる。

神様、どうか救ってあげて!と言いたくなる。

卒業して凪沙の元にやって来た一果。
ハニージンジャーソテーを2人で食べるシーンすら、救いよりも切なさが先に立つ。あぁ、きっともう凪沙は長くないなと思わせられて。

2人で海にやって来て、凪沙は一果の踊る姿を見ながら、「綺麗…」と呟き静かに息を引き取る。無事に迷わず天国に行けただろうか?
いやいや、もっと生きて一果の活躍を見て欲しかった。だって一果に希望を与えたのは凪沙なのだ。
深い愛情を注いでくれる誰かが居るって本当にありがたいこと。母親である早織から虐待されていた一果は、実の母親より母親になろうとしてくれた、そういう愛情を注いでくれた凪沙がいたからこそ立ち直れたのだ。
りんだってバレエの道が閉ざされても母親(佐藤恵梨)が深い愛情を注いでくれれば生きていたんじゃないだろうか。医者からバレエは無理と言われたら即座に「この子からバレエを取ったら何も残らない」なんて言う母親だから生きていけなかったんだろうな。

最後はバレエで成功してゆくだろう一果の姿があったけど、個人的にはそこに凪沙の姿があって欲しかった。
救いがあまりにも少ない気がする。

この映画で草彅剛は日本アカデミー賞主演男優賞をはじめ、数々の賞を受賞。
そうだよね、男優賞だよね、うん、でもこれトランスジェンダーの映画だから男優賞で良いの?女優賞でも良くない?
なんか複雑。

とにかく草彅くんの演技はいつも素晴らしい。表情ひとつ、仕草ひとつがまるでトランスジェンダーで苦悩する人そのもの。女性になりたくてなりきれない、やさぐれながらもピュアな感じ。
草彅剛と一緒に仕事した多くの監督や共演者が絶賛するように、あくまで役者が演じてるのではなく、まるでその本人がそこにいる感じ。憑依型というのか、努力の人であり、天才なんだろう。