溌狩

鳥の溌狩のレビュー・感想・評価

(1963年製作の映画)
4.2
・これまでに観たあらゆる映画の中でも一番怖かったかもしれない。私は鳥が苦手なので、「鳥が大挙して襲いかかってくる」というコンセプトだけでもゾッとする。3本に分かれた細くぬらっとした足、どこも注視していない真っ黒なビー玉のような目、くちばしを開いたときに見える薄桃色のヒダ……鳥を構成する要素が尽く気持ち悪く感じられてしまい、眼の前で鳩が不意に飛び立ったりすると声を出してビビリ散らかす。

・襲い来る敵を「鳥」にしたのは本当にすごい。身近にいるから攻撃されたときの感触を否が応でもリアルに想像できてしまうし、あれだけの数で来られたら抵抗できないのが直感的にわかる。鳴き声も私の不安と絶望を煽って、最悪な気持ちにさせてくれる。

・物語も中盤までは匂わす程度にしか鳥の姿を見せず、街の人間関係とそこから生まれる息苦しさで引っ張り、暖炉から家の中へ大量の鳥がなだれ込むシーンで一気に恐怖のギアを上げるからかっこいい。
あのシーンは誇張でなく全身の毛が逆立ったし、画面を観続けるのが辛かった。鳥嫌いにとってあんな地獄は他にない。本格的に鳥を恐怖の象徴として描き出してからは、たった一羽映るだけでも身が縮むようになる。
そして、そこまで来ると作品全体に"終末"の色が濃くなってまた面白い。鳥が人々を襲い始めたのに理由や理屈はいらないし、鳥も「襲っている」という意識などないように思う。善人も悪人も、愛鳥家も鳥嫌いも、何の区別もなくただ黒い瞳に反射したものを突いて啄む。つくづく最悪。
溌狩

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