アーモンドフィッシュ

ALI アリのアーモンドフィッシュのレビュー・感想・評価

ALI アリ(2001年製作の映画)
3.4
またまた船の旅で映画観賞。今回は前回見たジョージ・フォアマンからの流れでモハメド・アリの伝記映画をチョイス。彼の生き様を描いた作品ですが、二面性を持つアリの人物像をどちらも満足させる形で表現するのは難しい課題ですよね。特に政治活動家としてのアリを前面に出すか、ボクシング選手としての彼を強調するか。この映画ではそのどちらも詰め込んでしまったけど、どちらかにフォーカスがあった方が、観る側としては理解しやすかったかもしれませんね。

特に徴兵拒否の理由をしっかり描かなかったことは不満が残りました。まるで政府に行けと言われたから拒否した天の邪鬼のような感じで見えてしまうのです。実際はインタビューにも残ってるように「罪もないベトナム人をマシンガンや手榴弾で殺しまくることに正義などない。断じて拒否をする」と演説で言うシーンがごっそりあと抜けてるのです。ここが大事なのに。ジョージ・フォアマンとの試合の意義もあまり描かれていないことにも不満が残ります。あの試合はただの頂上決戦ではなく、「俺の敵はお前らアメリカだ」とまで言う、白人からしたら生意気な黒人アリと、黒人差別問題にも声を上げず代わりに星条旗を持つ白人からしたら理想の黒人フォアマンとのいわば白人対黒人の代理戦争の様子を呈しているのです。そこを描いて欲しかったですね。

アメリカではレディ・ガガや大坂なおみなどセレブが公の場で政治的な発言をするのは珍しくないけれど、アリがその先駆けとなったわけですね。マルコムXを公然と支持し、自らのキャリアを犠牲にしてまで政治的な立場を明確にしまして。その影響は計り知れません。自らのキャリアを犠牲にしてまで言える人は現在のセレブでいるでしょうか?私はかなり限られてくると思います。

最後はフォアマン戦に勝利して映画は終わりますが、個人的にはアトランタ五輪での最終聖火ランナーで終わった方が良かったと思います。

全体的には政府との対立をメインに据えつつ、ボクシングシーンはやや物足りなさが残る、そんなバランスの作品でした。