HAYATO

MのHAYATOのレビュー・感想・評価

M(1931年製作の映画)
4.0
2024年142本目
『メトロポリス』などで知られる巨匠・フリッツ・ラングの初のトーキー作品にして、サイコスリラー映画の始祖と称されるドイツの古典的名作
‟M”はドイツ語で殺人者を意味する「Mörder」の頭文字。1920年代、「デュッセルドルフの吸血鬼」と呼ばれ、ドイツ中を震撼させた殺人鬼・ペーター・キュルテンをモチーフにしている。
幼い少女ばかりを狙った連続殺人事件が発生。警察当局の懸命な捜査にも関わらず犯人逮捕の目処は立たず、やがて捜査の輪は暗黒街にまで広げられる。これを機に、暗黒街の面々は独自で犯人探しを開始し、浮浪者や娼婦まで動員して少女殺しを追う。やがて盲目の老人の証言が有力な手掛かりとなっていくが......。
脚本は、ラング監督と当時彼の妻であったテア・フォン・ハルボウが共同で執筆。
主人公の殺人犯役を演じるのは、『カサブランカ』などハリウッドでも活躍したピーター・ローレ。
アメリカにおけるフィルムノワールの成立に大きな影響を与えた本作。シャープなモノクロ画面や明暗のコントラストがその所以を感じさせる。張り紙に帽子をかぶった男の姿が黒いシルエットで映し出されるシーンは、不吉な展開を予感させる象徴的な場面。
作中にBGMは存在しないが、主人公が頻りにエドヴァルド・グリーグ作曲の劇音楽「ペール・ギュント」第1組曲の中の“山の魔王の宮殿にて”を口笛で吹く。この耳に残るフレーズが恐怖心を煽る。
警察の捜査が実らず、暗黒街のボスたちが独自に殺人犯を捕らえようとする展開はユニークで、暗黒街の会合と警察の捜査会議という対照的な組織の様子を同時進行で描く当時では革新的であった手法が取られており、登場人物が話しているセリフを他の場所にいる別の登場人物が引き継ぐ演出がとても面白い。
密室劇となる後半は予想外の様相を見せ、殺人犯を囲う群衆に恐怖を抱くなんて思ってもみなかった。単なるクライムサスペンスに終わらせず、集団心理の恐ろしさを訴えかけてくるところにラング監督の凄みを感じた。
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