第2次大戦中、
野戦病院の外科医をしていた藤崎(三船敏郎)は、ある男の手術中誤って指を切ってしまい、その男が梅毒に感染していたことから、
藤崎も梅毒に血液感染してしまった。
藤崎には内地に婚約者がいたが、終戦後帰還した藤崎は、
自分が梅毒のキャリアだと言い出せずに・・・
相変わらず、登場人物の感情の変化を『画』で見せることに関して、
抜群の才能を感じさせる作品です。
特に秀逸な場面は、主人公藤崎と婚約者の別れの場面で、窓の外では土砂降りの雨が降っていて、自分の恋心を抑えきれなくなった藤崎の表情がアップになった後、一瞬画面が発光し、冷静さを取り戻した藤崎を画面が再度とらえると、雨が雪に変わっている。
雨(混乱)⇒光(興奮)⇒雪(冷静)
見事としか言いようがありません。
そして、この雪が溶けだしたころ、反抗的だった看護婦見習いだった女性の心も、とても穏やかになっていたりする。
オープニングの大雨も、野戦病院の混乱の比喩ととらえることができると思う。
梅毒という病気の捉え方が、現代には多少そぐわない形になってはいるものの、この作品の訴えるヒューマニズムは普遍的なものだ。
黒澤明作品としては、小品の部類に入るものですが、
その演出力には一切の隙が無い。
改めて、
恐るべし、黒澤明・・・です。