誤宗黒鳥

殺しが静かにやって来るの誤宗黒鳥のレビュー・感想・評価

殺しが静かにやって来る(1968年製作の映画)
3.4
「俺にも法はあるぜ。俺の法は生き残る事さ」

「続・荒野の用心棒」と同じくずいぶん前から存在だけ知っていて観なかった作品をようやく鑑賞。「続…」よりは背景世界を作り込んでいて人物関係も入り組んでいて見応えがあった。

雪深いユタ州の奥地?を舞台に悪徳判事に野盗にならざるを得なくされて山奥に追い出された人々、それを判事と共謀して狩る賞金稼ぎ、それを返り討ちにする謎の風来坊サイレンス、賞金稼ぎに夫を殺されて復讐に燃える未亡人、判事と賞金稼ぎに不満を抱く町の人々、そんな無法地帯にたった一人で任命されてやってくる保安官、といった面々が居合わせる、という西部劇にしては背景になる町の人間関係を大切にした作りで好感。
勧善懲悪を求めるといっても西部劇はそもそもだいたいどの人物もいつ殺されるか分からない時代で暴力の上で生きてきているので安直に善悪を測るのも難しく、誰にも感情移入しない目で見れば案外本作の人物の言動はあからさまな善悪を押し付けてるようには見えなかった。確かに賞金稼ぎのロコは悪党だが相手に応じて態度を変えて立ち回る狡猾な奴で、しかしその行動原理にあるのは本人が言う通り、「生き残る事」である。冷酷で狡猾だが軽口や冗句も叩くのを見ているとどこか憎めない気もしてくる。そこが単なる悪役ではない何かを感じる。役者はロリコン近親姦野郎だったようなので本当に狡猾だったようだが。

むしろ本作でほとんど誰も注目してないが面白い存在なのは新任保安官だろうと思う。彼はセット丸出しの大統領室?のようなところで雑な地図を指さされてユタ州にたった一人で送り出されて法律を順守した秩序を無法地帯に作り出そうとする。その気迫の前ではロコも判事もおとなしくなり、サイレンスとは西部劇おなじみ手投げクレー射撃で親睦を深めて判事一派以外の町人からの信頼も持たれているようだった。そんな彼もちょっとした油断によって退場し、その結果あのエンディングになるわけではあるのだが…
秩序が失われてしまった町で状況は一気に混沌と化し、サイレンスも重傷。そりゃあの終わりが妥当ではある。実は製作されていたもう一つのエンドでは川に沈んだと思われた保安官がさっそうと登場してサイレンスの窮地を救って…という事になって一気に様相が変化するので保安官の存在感が実はサイレンスなどより大きいのではという気もする。そういう意味ではもっと保安官を中心に鑑賞する作品としても面白い見方ができるだろうし、その分どこに感情移入するかで見方が変わってくる程度に登場人物が案外客観的に描かれている気がする映画ではある。それが好感が持てる理由でもあった。
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