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華麗なる一族のotomisanのレビュー・感想・評価

華麗なる一族(1974年製作の映画)
3.8
 佐分利信による一家の主の集大成は万俵一門の総帥。それなら、まだまだ総理大臣だって闇の何とかだってあるじゃないかという向きもあろうが、そんな、一国の頭と称しながら弱卒数千万を引き摺る選挙屋風情だの、お天道様をまともに拝めない極道だのになって何が嬉しかろう。
 華麗なる一族には最高の血統が産みだす粒選りの少数者で十分。一億で割ったらGDP20位などと恥ずかしかろう。と、言いたいところだが山高ければ崖崩れ。金環蝕並みの暗い内実が一門の和合を乱している。

 英雄色を好むのは皆同じ?佐分利の父、仲代翁の色好みが佐分利の妻を蚕食し、佐分利は佐分利で一度に二人でないと身が持たないという。では、その息子、若仲代はというと何の出来損ないかそれともあらぬ噂への反発なのか身ぎれいな事。
 海運・製造業で身上を築き、銀行界に打って出た翁、銀行業を都銀レベルに持ち上げた佐分利、女を巡る不和の余波は若仲代の血筋への疑問として深くわだかまる。
 その仲代は親の佐分利に似ず翁が手掛けた鉄鋼業に専心し、長男でありながら銀行には目もくれない。これが父、佐分利の気に染まないし、一層仲代を疎んじる。

 物語は、都銀末席から這い上がろうと上位行を併呑するため政官財界で工作を重ね、支店に過重なノルマを課す佐分利と、その猪突に水を差すようにリスクを取ってでも高炉建設で製鉄業界での地位を高めたい仲代との意地のぶつかり合いの様相となる。
 その末に仲代の敗死と佐分利の完勝が巡ってくるのだが、死なれて初めて親子の真実が知れる。
 では、実の親子と承知なら佐分利は仲代の高炉の融資を全て呑んだろうか?その建設工程と鉄需要の見通しのリスクに目を瞑ったろうか?生きて骨肉の争いが続くのがよかったのか、佐分利一個の身の不明と罪を背負って息子のこころ根のきれいさを悼むのがよかったか?
 銀行本体で行員九千、家族は四万、全財閥で数万の口が間もなく倍を数えるようになる。これを預かる佐分利に息子の意地の高炉一基のため数十億円をふいにする余裕などない。

 いかに優れた血統であり、その通りの能力を発揮できても道を誤れば全ては無駄になってしまう。あの能力を佐分利の心置きなく銀行業で政官界で発揮させられたなら万俵王国の民十数万をどれほど潤せたろう。
 仲代も誤ったし佐分利も誤った。今また、銀行再編の本番が都銀中位に躍り出た佐分利の足元を絡めとろうと動き始める。播州の地主に始まって一族郎党を養うため起業し他者を食い、手下を増やしてきた万俵が自身の血筋を養い損ねて傾きつつある。佐分利がそれに気づいているのか、弱卒数千万の敵地、東京に乗り込んで新銀行の長として今を絶頂の中、危機を告げる片腕はもう戻ってこない事を忘れていないか。
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