ジミーT

坊っちゃんのジミーTのレビュー・感想・評価

坊っちゃん(1977年製作の映画)
5.0
「ゴジラ-1.0」を観た時、翻然と気づきました。このキャストとスタッフでそのまま「坊つちゃん」ができる!学園青春物に改編しない原作密着型「坊つちゃん」が。以下の通りです。

坊つちゃん 神木隆之介
山嵐    青木崇高
赤シャツ  佐々木蔵之介
野だいこ  吉岡秀隆
うらなり  山田裕貴
マドンナ  浜辺美波
狸     田中美央
清     安藤サクラ

監督 山崎貴

ボッチャニアンの私が認定しているから間違いありません。あ、ボッチャニアンとは「坊つちゃん」ファンのこと。シャーロッキアンという言葉から、今、勝手に名付けました。(注)

もちろん、山崎監督にはVFXで明治38年の四国辺の街を再現し、物語を活写してもらう。いいと思うんだけどなあ。
ただひとつ気がかりなのは、山崎監督は人間的で大衆的感動を呼び起こすのは素晴らしくうまいのですが、「坊つちゃん」の世界にマッチするかどうかという点なのです。風光明媚な四国辺の風景はともかく、あの小説の殺伐とした世界にマッチするかどうか。なのです。

「坊つちゃん」とは直情径行な正義漢の教師の青春物語などではありません。世間知らずで自分勝手で甘ったれで酷薄で年寄りくさい「おれ」の物語で、それこそが「坊つちゃん」の大魅力。第一、青春物語なら必要不可欠な教師と生徒の交流が全くない!どころか「おれ」は生徒を人間扱いしておらず、赴任先も最後まで不浄の地扱いなんですね。

ではこの映画「坊っちゃん」はどうなのか。
中村雅俊と「おれ」は似ても似つかない感じなのですが・・・、しかしうまくやった。
原作からは時代と登場人物と設定だけを借りて、当時売り出し中の青春スター・中村雅俊のスター・イメージに合わせ、原作とは真逆の学園青春物語を作り上げることに成功しています。このアダプテーションは実にお見事で、「坊っちゃん」であって「坊つちゃん」ではない。だけどこれはこれでアリ。
松坂慶子のマドンナも単に深窓の令嬢であるだけでなく、「自立した女性」を目指しているのも製作当時の世相を反映していて今となっては懐かしい。
ボッチャニアンも納得の佳作でありました。

だからこそ今、「ゴジラ-1.0」のキャスト&スタッフによる、原作密着型「坊つちゃん」の大期待なのでありますよ。いいと思うんだけどなあ。作ってくれないかなあ。


ボッチャニアンであって、ソーセキアンではありません。「坊つちゃん」以外に夏目漱石の本は一冊も読んでません(きっぱり)。

追伸1
米倉斉加年の赤シャツだけは原作からそのまま飛び出してきたような感じでした。この人は1970年のテレビ・シリーズ「坊っちゃん」でも赤シャツで、赤シャツ役者の最高峰です。
ちなみにこのテレビの「坊っちゃん」は、坊っちゃん・竹脇無我、山嵐・田村高廣、うらなり・小松政夫、マドンナ・山本陽子で、今の所最も原作に近い映像化作品であります。

追伸2
作家で評論家の関川夏央は「坊つちゃん」という小説を評して、「これは明治時代の青春物語などではなく、江戸の晩年の物語なのである」という主旨のことを言っていましたが(出典忘却)、小説「坊つちゃん」の魅力はこの一言につきます。
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