櫻イミト

幻想殺人の櫻イミトのレビュー・感想・評価

幻想殺人(1971年製作の映画)
3.5
ルチオ・フルチ監督の「女の秘めごと」(1969)に次ぐ2本目のジャッロ映画。音楽エンニオ・モリコーネ。撮影は「サスペリアPART2」(1975)のルイジ・クヴェイレル。原題は「Una lucertola con la pelle di donna(女の皮を被ったトカゲ)」。

ロンドン。大物政治家ブライトンの娘キャロル(フロリンダ・ボルカン)は、父親の部下フランク(ジャン・ソレル)と結婚し裕福な生活を送っていた。しかし不可解な悪夢に悩まされ精神科に通っていた。医者によると悪夢の原因は隣人のジュリア。彼女の部屋では週末にヒッピーたちが集まりセックス&ドラッグまみれの乱交パーティが行われていたのだ。一方、キャロルとフランクの夫婦関係には深い溝が出来ており、夫の連れ子の娘ジョーンとの間柄も微妙だった。そんなある晩、ジュリアを刺し殺してしまう恐ろしい夢を見たキャロルは医者に不安を訴える。その数日後、現実でジュリアが自室で他殺体となって発見された。。。

「女の秘めごと」のサイケな色使いやスタイリッシュな映像とは雰囲気が変わり、退廃的なムードと荒々しいカメラワークが目立つサイコ・ミステリーだった。

初見の感想は、かなり話がややこしいということ。1回では理解できず後半を観直してやっと理解できた。参考にネットを調べたがストーリーを誤解しているレビューが多々見受けられた。かなり入念にシナリオ構成されているのには感心するが、“主人公の悪夢の再現シーン”と“現実の回想シーン”を並列で描く手法は映画的には禁じ手に近く、本作を「ドグラ・マグラ」的な難解さに仕立て上げている(それが本作の魅力とも言える)。

冒頭から描かれる悪夢=電車の中で蠢く裸の男女や盲目のヒッピーは、幻想表現としてはありきたりで手持ちカメラ撮影も乱暴気味、美しさは追及されていない。最も良かったのは中盤のだだっ広い建物内の逃走シーンで、とにかくロケーションに力があり白昼夢のような雰囲気を巧く醸し出していた。現場はロンドンの有名なイベント会場アレクサンドラ・パレス。ロンドン万博(1862)で使われた建物の解体資材で造られたとのこと。

動物虐待が疑われ警察沙汰となった“解剖犬”も良く出来ていた。美術を手掛けたのは「キングコング」(1976)や「E.T.」(1982)で知られるカルロ・ランバルディ。本物と間違われるほどのロボット犬だが、犬好きの人は見ない方が良いと思う。

全体的に暗い殺伐さを感じたのは、本作の主人公を演じたフロリンダ・ボルカンが、先日観たばかりのフルチ監督の次作「マッキラー」(1972)で、惨殺される女呪術師マッキラーを演じていたことがイメージ的に影響したかもしれない。また、後で調べて分かったのだが、1970年にフルチ監督の愛妻マリーナが自殺し、本作が1年後の復帰作だった事も影を落としているように思われる。

反権威を信条とするフルチ監督が本作でブルジョアを否定的に描いているのは当然だが、ヒッピーたちも同様にネガティブに描かれている。本作のどの登場人物に対してもフルチ監督の情が感じられず、全編から絶望が滲み出ているような、暗さが印象的な一本だった。

※原題「女の皮を被ったトカゲ」は、ジャッロ映画のルーツであるドイツ・クリミ映画の第一作「マスクを被ったカエル」(1959)にかけていると思われる。
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