ふみたけFUMITAKE

ブラー ニュー・ワールド・タワーズのふみたけFUMITAKEのレビュー・感想・評価

4.2
イギリス最高の伝説的ロックバンド、ブラー。

この映画はバンドの16年ぶりにして大傑作のアルバム「ザ・マジック・ウィップ」(2015年発表)が作られた経緯から、その後8万人を集めたハイドパークでの野外コンサートまでを辿る、興味深いドキュメンタリーです。

ブラーは昔からのファンだけでなく、初めて知る人にも未だに新鮮な遊び心とワクワクとした感動を誘う、バンドらしくないカラフルさのグループである事を、この映画を見る人は体感する事ができるでしょう。

90年代の半ばから0年代初頭にかけての20代の時期、音楽的にも存在としても革新的だったブラーのと同時代に育ってきた自分にとって、この映画の登場は新作アルバムと同様に、非常に心から喜ばしい物でした。



【映画の構成についてザックリ解説】
映画の前半では新作アルバムが生まれた映像となっており、メンバーが初めておとづれた香港の見知らぬ街にある狭苦しいスタジオで、奇跡の様な曲作りを進めた話となっていて、僕は個人的にここの部分が非常に好きです。

そして中盤以降からは、ハイドパークでのコンサートで往年の名曲が演奏されるのをたっぷりと味わいながら、メンバーの、心からほとばしり出るような語りの数々を楽しむできます。



【僕の心が最も動いたのは最初の香港の曲作りのエピソード】
長年、一挙手一投足を注目され続けてきた紆余曲折の中で、クリエイティブな作業が難しくなっていたバンドが、本人達にも予想外だった創造性を復活させた要素が、とても面白いです。

《バンドの創造性を復活させた要素》
▶︎初めて訪れる「香港」の新鮮な非日常感
▶︎コンサートのキャンセルによって偶然ポッカリ開いた5日間という時間
▶︎偶発的にスタジオ入りして生まれた、誰にも知られずに没頭できる環境

こう言った、環境をシンプルに生まれ変わらせる要素が、ブラーにとっては非常に貴重価値のある物だったわけですね。

普通の若い人だったら割と当たり前にある様な環境が、です。

若い人なら外に出たら割と容易に新鮮味を味わう事ができますが、40代も半ばも過ぎると文化圏のまるで違う遠いところまで行く必要があるわけです。しかもバンドならみんな揃って一緒に。





【ブラーにとって香港とは何だったのか?】

香港は、僕らの様な日本人にとっては、最も行きやすく身近な国ですが、イギリスからはものすごく遠い、レアな国なったりするのでしょう。

しかも長年のイギリス統治下にあった香港の文化は、どこか英国の香りも漂っていて、バンドにとってはある種の縁を感じられる場所だったのかもしれません。

たまたま開いた休日の5日間を、つい楽器を手に取って集まるあたりは、ミュージシャンあるあるのノリなのでしょう。

その時についてのメンバーのコメントも、アンサンブルの様に面白い。

グレアム
「僕は反対だったよ。数日ゆっくりしてたかった。スタジオは狭苦しいし、それならプールで泳いでる方がいいよね」

デイブ
「香港を観光する事もできたが、ミュージシャンは暇になると楽器を手に取るものさ」

デーモン
「ブラーとして曲を作るほうに好奇心をそそられたのさ」

アレックス
「初セッションの時みたいにとても楽しかった」

大手のレコーディングスタジオとは程遠い、窓もなく地味なスタジオで4人で隔離状態でこもり、フロー状態で音楽を作り、行きと帰りは4人で地下鉄に乗って帰るという。

あのブラーが香港の電車に並んで座ってるの想像すると、ちょっとシュールな気もしますね。

そして、そういう高校生の様な、もっというとデビューした頃の様なカジュアルさが、バンドにとって非常に重要だった事が伝わってきました。

特に夜の地下鉄に座る4人が、その日のセッションが最高だった事の喜びを自制心で抑えつつ、言葉も交わさずに噛み締めている映像は、ほんの一瞬だけしか映らないのにもかかわらず、心に焼き付くほど印象的です。

ライブのシーンでも街を歩くシーンでも、見た目はやっぱり40過ぎのおっさんなわけですが(アレックスは膝上短パンw)。

そして、それでもこの4人が立ち並ぶ姿には、何かドラマ性とお洒落さの漂うかっこよさが健在だったりして、元気をもらえます。



【バンドの豊かな音楽性と物語性を感じられる中盤以降】

映画の1/4を過ぎるあたりからは、コンサートによる往年の名曲の演奏を楽しめますが、そこでは、ブラーのミュージシャンとしての圧倒的なセンスと豊かな音楽性を生々しく味わえました。

ファンの人たちが目をキラキラさせてバントと一緒に歌ってる映像には胸を熱くするものがあります。女子率高そうだし。


そして、アルバムのミックス作業がグレアム主導で行われていく様が紹介されていて、ここにはバンドの歴史を振り返る要素もあります。

0年代にどうしようもなく、1人バンドを脱退したグレアムが、時を経てアルバム制作を主導して新作の成功に導く過程は、ファンとして感慨深いものがありました。


19歳の時から一緒に音楽を奏で続けて、嵐にもまれて、一時は散り散りになったりもしもしながら、再び結集して最高の音を奏でる、4人のおっさんの姿はきっと多くの人に感動と元気をもたらしてくれると思います。

さ、「ザ・マジックウィップ」聴こ♪