しずる

テリー・ギリアムのドン・キホーテのしずるのレビュー・感想・評価

3.9
テリー・ギリアムの真骨頂。若干の難解さ、癖の強い悪夢的ビジュアル、際どいギャグセンス。受け手を選び、評価のバックリ分かれる作品だろう。
灰汁の強さも難解さも、この監督にしては比較的マイルドと思えたのだが…。

今映画を見ている現実の我々、映画の中で作られる映画作品、作品中のフィクション世界。幾つもの階層が交錯し侵食し合うような劇中劇の仕掛け。
『ネバーエンディングストーリー』を読んだ事のある人には、理解しやすいかと思う。重なる世界を、奥へ奥へと深く潜っていくような感覚。今自分が見ている光景が、どの階層のものなのか、混乱と曖昧さの内に、やがて物語世界に取り込まれてしまうような。不安定で恐ろしく、でも何処か蠱惑的な、この酩酊感がいい。キャラクターや展開に垣間見られる、神話や心理学的ファクターも、ファンタジー好きには堪らない。
現在と回想が代わる代わる繰り広げられ、現実と幻想が入り交じり、敢えてなのか、時に不親切に唐突に切り替わる。それらを繋ぐ、芝居の役柄を真実と思い込んでしまった老人と、映画制作というまやかしのスペシャリスト達。
社会規律や常識に対し、端迷惑で滑稽なものとして描かれている老人の奇行が、やがて、それを見せ物にして嘲笑う大衆の下劣さと、勇気と自己犠牲をもって弱者を守ろうとする高潔な騎士道精神へと、反転して見えてくる。醜悪な現実が、美しい虚構に喰われていく。
やがて夢は覚めるが、ドン・キホーテは死なない。偽りの武器と鎧で、理想を掲げて、無謀に巨人に立ち向かう結末は、テリー・ギリアム自身の、映画という幻想世界への愛と信念にも思えてくる。

何度もトラブルに見舞われ、キャストも二転三転したというこの作品だが、アダム・ドライバー、ジョナサン・プライスの主演陣が素晴らしかった。終わりよければ全てよし。
B級感があってらしいと言えば言えるが、邦題と予告編は、もうちょっとどうにかできなかったものか。ファン以外全く興味をそそられなくない?これ…。
しずる

しずる