しずる

ザ・プロムのしずるのレビュー・感想・評価

ザ・プロム(2020年製作の映画)
4.0
初端から、ブロードウェイのミュージカルシーン。ギンギラのステージ衣装で、大勢のアクター達が、スクリーン狭しと歌い踊る。テーマはLGBTと現代風なれど、古き良きミュージカルの香りがプンプンする。

新作舞台がコケて背水の陣のベテラン俳優、チャンスを掴めずクサりぎみの端役。波に乗れない俳優達が目論んだのは、社会活動によるイメージアップ。同性とのプロム参加を認められずにツイッターでバズっていた女子高生を、お手頃案件と見込んで現地へ乗り込むが…。
古風な地方の拒否感は強く、頭ごなしの啓蒙活動は上手くいかない。傷付く女子高生、どうせ自分達もはみ出し者と落ち込む俳優達。
だが、若者は諦めない。時代は変わった。自分らしく生きたいと、傷付きながら闘う人達が世界中に沢山いる。ネットワークは心を繋ぐ。失意に慣れた大人達も勇気付けられ、それぞれが自らの問題に立ち向かう。
最後は全てが好転し、予定調和のハッピーエンド。

ありふれたストーリー、チープな主張、力業の展開、溢れるご都合主義。
だからどうした?これはミュージカルなんだ!
ミュージカルファンの校長先生が言っていた。唐突に歌い出し、踊っている間に全てが解決する世界。うちひしがれた僕達は、夢を求めて劇場に集い、ステージを仰ぎ見ながら癒されるのだと。だから歌い踊り続けてくれと。

エンターテイメントには苦難の時代だ。今必要とされているのかと作り手は苦悩し、今望んでいいのかと受け取り手は躊躇する。
だが、居直るかのように堂々と、力強く、豪華キャスト達が歌い、踊り、演じ上げる。ここが私達の世界、これが私達の使命だと。
それでいい。

現実が甘くも容易でもなく、正義は破れ、弱者が虐げられ、奇跡も殆ど起きない事なんて、私達の誰もが知っている。
だからこそ、ステージの上から虚構の夢と理想を振り撒いて、疲れて蹲まる私達の、ブルーベリーみたいにちっぽけで柔い心に、再び立ち上がって歩き出す勇気と気力を与えてくれ。
ブラボー!
しずる

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