鈴木ピク

MONOS 猿と呼ばれし者たちの鈴木ピクのレビュー・感想・評価

MONOS 猿と呼ばれし者たち(2019年製作の映画)
4.6
天空の世界で無邪気に生きる猿のような蛮族のような少年兵たちの世界。
取り留めなく、しかし荘厳な雲上の光景が続く前半から、次第に話が見えてくるにしたがって場面は密林へ移行し視界は阻まれ、そして「猿たち」は「個人」に分離していく。

圧倒的な映像体験であることは間違いなく、唯一無比の魅力を秘めた傑作。
ただあくまで個人的な趣味として、序盤の、こちらと価値観を共有してない生活、それにリンクする映像世界が「ドラマ」に浸透していくにしたがって、この映画が持つ(コロンビア内戦というバックボーンはあるが、明示はされない)非日常の論理が、あくまで西洋文明との距離という物差しで測られた計算を感じさせてきて、そこに残念さを覚えてしまった。もっともっと未知の世界のままであり続けていてくれたら(近年だとクレベール・メンドンサ・フィリオの『アクエリアス』や今年のストップモーションアニメ『オオカミの家』はまさしくそうした魅力が持続していた)。

それでも原初的にして強靭な映像による語りの魅力、集団が個に分裂していき、その混乱の極みでブツ切りされる、「非常に整理された混沌」という幕切れの構成美(普通はその後の決着まで描きたくなるが、むしろ観客の興奮はこの分裂の過程がピークなのではないかといわれるとそんな気がする)、はちゃめちゃ刺激的だったことは間違いなく。
鈴木ピク

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