ハヤシ

アメリカン・ユートピアのハヤシのレビュー・感想・評価

アメリカン・ユートピア(2020年製作の映画)
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ハートランド片手に気持ちよく観た(気持ちよさに任せて少しだけ落ちた)。

絵本みたいだと思った。言葉と音と動きによって作り上げられた、観る絵本。歌われる言葉が音と動きと共鳴して、目の前にその世界が広がるみたいな感じがした。

中盤、デイヴィット・バーンがバンドメンバーの名前と出身地を紹介するくだりがある。名前と出身地を紹介されたメンバーがソロを演奏する。それが11人分繰り返される。何故だか分からないけれど、そこで涙が出てしまった。
それまで、それはデイヴィット・バーンとバックバンドによるショーだった。デイヴィット・バーン以外の人のことは、11人でひと塊であるかのように、あるいは楽器として認識していた。一人ひとりの名前と出身地が与えられたとき、彼らがそれぞれに異なるアイデンティティを持つ人間であるということを、強く感じるようになった。「デイヴィット・バーンとバックバンドによるショー」が、「デイヴィット・バーンを含む12人によるショー」になったような感覚。

『アメリカン・ユートピア』が"Old White Man(年配の白人男性)"の手によるものであると知ったとき、この人の言うアメリカン・ユートピアとはどのようなものなのだろうか?と、訝しむ気持ちがなかったと言ったら嘘になる。
その中身を見れば、彼は多様性を尊重することをそのショーの中心に据えているのだということが伝わってきた。そればかりか、自分がそのような立場にあることについて、明確に言及をしさえした(そして彼自身も移民であったとは知らなかった)。
それは逆に、私の中に少なからずあった"Old White Man(年配の白人男性)"への偏見を炙り出すものだった。カテゴリーで判断することの危険性を改めて考え、反省する機会を与えてくれた。
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