溌狩

ボーはおそれているの溌狩のレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.0
・日々様々な不安を抱えて生きる男、ボー。彼は母親の誕生日に帰省することを約束していたが、当日の朝に寝坊してしまい、慌てて家を出る準備をしている間に自宅の鍵を盗まれてしまう。その後も不運が続き、帰省が叶わないことを電話で母親に話すと深く失望されてしまう。自らも精神的に傷つき疲れ果てたボーだったが、次の日、再び彼が母親に電話をすると「彼女はシャンデリアに頭を潰されて死んだ」と告げられる……というおはなし。

・いや、嘘だ。全然「……というおはなし」ではない。こんなあらすじが意味をなさないくらい超越的な映像と物語が繰り広げられる。本当にめちゃくちゃだけど、本当に面白い。初っ端から強烈な嫌さと不安を浴びせられて、そこから選んではいけない道を走り続ける様子が3時間ひたすら続く。ボーが殺人鬼に腹を刺された後、より痛みが想像しやすい手のひらを滅多刺しにされるシーンなんかは観客に対する明確な悪意がないと撮れない。地獄ってこういう嫌なことが延々と降り注ぐ世界なのかもな……と思った。

・とにかく変な映像や嫌な映像が観たい人は絶対に映画館へ走ったほうがいい。私は一生分の異様で妙な映像が観られて大満足だった。たぶん作品を通してユダヤ教的な世界観が下敷きにあって難解な映画ではあるのだけど、それはそれとしてストーリーライン自体はわかりやすいし、陶酔してしまうような映像が続くので飽きはしない。かなり疲れる映画体験だったのに、何度も観たくなる。

・アメリカでの興行収入はあまり振るわなかったそうだけど、正直そりゃそうだろと思う。これが大ヒットしている世界はどう考えても歪だ。偉い人たちにどうこの映画のことを説明したのか想像もつかない。企画書とかあるのかな。
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