HAYATO

オッペンハイマーのHAYATOのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
2024年123本目
こんなにも公開が遅れるなんて予想だにしなかったクリストファー・ノーラン監督最新作
「原爆の父」・ロバート・オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を描いた伝記映画
第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト・マンハッタン計画。ロバート・オッペンハイマーは、優秀な科学者たちを率いて世界初となる原子爆弾の開発に成功。しかし、投下された原子爆弾が引き起こした惨状を知った彼は、言い知れぬ苦悩を抱える。
オッペンハイマー役の『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』のキリアン・マーフィの他、『アイアンマン』のロバート・ダウニー・Jr.、『ジャングル・クルーズ』のエミリー・ブラント、『デューン 砂の惑星 PART2』のフローレンス・ピュー、『オデッセイ』のマット・デイモン、『オペレーション・フォーチュン』のジョシュ・ハートネット、『ザ・ボーイズ』のジャック・クエイド、『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェイソン・クラーク、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のオールデン・エアエンライク、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケイシー・アフレック、『プリズナーズ』のデヴィッド・ダストマルチャン、『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレック、『オリエント急行殺人事件』のケネス・ブラナー、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』のゲイリー・オールドマンらが出演するとてつもなく豪華なキャスト。これまで長らくノーラン作品を脇役として支えてきたキリアンが満を持して主演に抜擢されたのが胸熱。彼の離れ業とも言うべきパフォーマンスにはただただ感嘆した。
第96回アカデミー賞で作品賞を含む7部門受賞を果たした本作は、世界興行収入1400億円を超える世界的大ヒットを記録し、伝記映画としては『ボヘミアン・ラプソディ』を抜いて歴代1位の座についた。そんな本作の魅力を余すとこなく体感するにはIMAX版で鑑賞するっきゃない。
カラーパートとモノクロパートを組み合わせ、3つの時系列と複数の視点が交錯する形で展開されるノーランらしい複雑な構造を持った作品なので、ある程度の予備知識が必要とされる。とにかく登場人物が多く、膨大なセリフを追うのもなかなか大変なので、吹替版も作って欲しいな。
戦後、「戦争を終わらせた人物」として英雄視されていたオッペンハイマーが、ヒステリックな赤狩りの渦中で共産主義者のレッテルを貼られ、政府の目の敵になる様は、『ハドソン川の奇跡』の物語の構図と重なる部分があった。
科学の進歩を追い求めながら、国家の大義に利用され、それが生んだ悲劇的な結果に苦悩するオッペンハイマー。ストーリーが進むにつれ、倫理的な葛藤と矛盾に満ちた1人の科学者が持つ多面性が浮かび上がり、これまで想像したことのなかった核開発の歴史の一面に思いを巡らすことになった。
本作においてとりわけ印象に残ったのが「音」の表現。さまざまな場面で唐突に挿し込まれる抽象的なイメージが天才の「頭の中」を覗き込んでいる感覚にさせてくるが、それらに付される不穏な音は、全身に振動が響き渡り、核開発の凶暴性がオッペンハイマーに襲い掛かっているかのようだった。
ルドウィグ・ゴランソンが手掛けた音楽も圧巻で、“Can You Hear The Music?”と”Destroyer Of Worlds”のダイナミックな音色が最高だ。
本作をきっかけに核軍縮や核不拡散を訴える作品が増えるといいな。
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