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オッペンハイマーのzkのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
300年の物理学の集大成が爆弾だなんて。(意訳)

諮問会で振り返る科学者オッペンハイマーの一代記。
ノーランにしか作れない無二の映画なのは間違いないと思う。
180分の上映時間もとんでもないが、なによりとんでもないのは、この内容を180分に収めた事にある。

というのも本作は気付いた人は気付くと思うがyoutuberの動画を観ているかのような編集なのだ。
セリフとセリフの間をカットして矢継ぎ早に語りが進行する動画のように、本作もかなりシビアに間を排除し、あらゆる会話は数珠繋ぎで進行している。観ていてすごく字幕を追うのに忙しいと感じた人は多かったと思う。字幕から目を切る暇が無いほどである。
本作は吹き替えで是非もう一度観たい。

以下ネタバレ抵触します。

作中でトルーマンが「原爆を落とされて製造者を恨むと思うか?落とした人間を恨むに決まっている。私だ」と言っているが、その問いかけに本作のテーマはだいたい集約されている。

作中現在時間の彼の行動に対し他人の、それも日本人の私が私見を述べるなら贖罪に他人を巻き込むべきではない、に尽きる。突き放して言えば勝者が善人ぶりたいのかな、という感じだ。
とくに奥さんにとっては最悪の経験だろう。本作の女性たちは彼の信念や行動について回る「自分が善人でいたい」という気持ちから来る相反行動の被害者だ。
彼は禊を終えたのか。自分でそう思うならどうぞご自由に、という感じだ。

ただ、彼なくとも原爆開発は多発的に進行するし、続く冷戦時代も核の恐怖も人類がいずれ必ず通る通過儀礼だと感じる。
しかしそれは我々が戦後生まれの未来人で、生まれた時にすでに核が存在しているからというのもある。本作はまさに人類が未知の儀礼を通過する時の恐怖を描いている。

原爆実験の地鳴りと人々の熱狂を同種に感じさせる演出など上手さが随所に光っていた。

ところで本作はCGなのかメイクなのかわからないが登場人物の老けメイクが素晴らしい。
ロバート・ダウニー・Jrは出色のジジイぶりだった。
オッペンハイマーだけ妙にあまり風貌が変わらないのは意図的なのかな。
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